2017年11月の男木島を皮切りに、香川県を中心に石積みのワークショップを各所で行っています。石積みの技術は日本の多くの場所でその伝承が途切れてしまい、石を積める先人がいなくなってきています。しかし野石の石積みはそれほど難しいものではありません。基本さえ守れば、そして低い石垣なら誰でも安全に積むことができます。雨の多い日本の気候風土では植物の根と親和する空積みの石垣がとても大切です。今後もワークショップを続けたいと思うのでぜひ参加してください。またワークショップのご依頼もお待ちしています。
▼私の石積みのテキストは『山で暮らす 愉しみと基本の技術』『楽しい山里暮らし実践術』に図解で詳述してあります。
▼以下、男木島で初めて行われた石積みワークショップのレポートです。
2017年の11月25日と12月2日の2日間をかけて、香川県高松市の男木島で石垣づくりのワークショップを行ないました。主催は【NPO法人 男木島の町並み保存推進協議会 みんなの輪】。集落の上部にある体験型民宿「ドリマの上」をベースに、前編の11月25日はスライドによる座学と石垣観察のレクチャーを、12月2日は実践篇として今年の台風で崩れた畑の石垣を皆で修復しました。
素人相手にいきなり石を積ませるのは無謀にも思えるのですが、島ではすでに崩れた、あるいは崩れかけた石垣が多数出てきており、しかも石垣を積めるお年寄りがもう誰もいないということで引き受けました。
観察してみると、島という特殊性ゆえ裏込め石が手に入らず、水はけのかなめとなる小石(裏込め石)が入っていない石垣が多いようでした。家屋が壊されて空き地になると石垣の中を水が通過するようになり、すき間から土が流れて、それが崩壊のきっかけを作っているのです。
また、垣根や石のすき間から生えてくる草も長く放置されている所があり、それも石垣を徐々に劣化させていきます。空き家になって雨樋が詰まると、石垣の中に雨が落ちるようになります。過疎による手入れ不足が、石垣崩壊を招いているのです。
ワークショップでは、前半の座学に3枚のテキストと3本のスライドを用意し、石垣の機能やタイプを知ってもらうこと、男木島の石垣の特殊性という価値を認識してもらうこと、そして石積み実践の要諦を解説しました。
後半にそなえて島の道具(ツルハシ、スコップ、ハンマー、ピッケル、手箕、小幅板、丁張糸、他)を集めてもらいました。島にはかつて石垣名人がいたそうなので、道具が必ずどこかにあるはずなのです。
幸い天気に恵まれ、また修復する石垣の場所やサイズがワークショップに程よく、意欲的な参加者のおかげでなんとか無事に終えることができました。午前中は東京工業大学の先生や学生さんたちが参加してくれ、足りない裏込め石には廃材瓦を割って代用するすることにし、分担作業で予想以上にはかどりました。
午後は丁張をつくり、皆で石と格闘しながら積み上げていきました。3点でカチッと石が納まること、ツラよりも控えを長くとること、積んだ石の上面が奥に傾斜していること。その条件すべて満たしていたら、飼い石によってさらに補強を強める。石垣積みは考えてもダメで、無心になって石を回し、感じていくことが大切なのです。
後半には参加者たちもなんとなくコツが解ってきたようでした。最後は瓦が足りなくなり、下の置き場から一輪車で運ぶという一幕もありました。なにしろ、島の人たちは自身の問題ですから必死です。また島外からの意欲的な参加者にも助けられました。
崩れた石垣の修復なので石がみな茶色に染まっていましたが、雨で洗われたら玄武岩の黒が出てくるはずです。美しさを再認識してもらえることでしょう。ここから上部は島の人たちで積んでいくそうです。これを機に石垣修復が続けられることを願っています。
(大内正伸)
追記:翌週の1.5日を使って完成させたそうです。