朝、ツイッターで映画「X年後」が松山で上映されることを知った。YouTubeでドキュメントを見て感銘を受けていたのだが映画にまとまったらしい。しかも監督のトークがある。時間が空いていたので見に行くことにする。
▼「X年後」予告編
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さて、高松から松山まではけっこうな距離。相変わらず愛車の軽4アクティ号なので下道であるが、途中、前々から行ってみたいと思っていた三豊の讃岐ラーメン「はまんど」へ寄ってみる。辺鄙な場所なのに車がいっぱい。ほぼ満席。建物が蔵風で、移築なのか本物の軸組みの建物でアプローチは石畳。
意外にも入り口には券売機があり、数種のラーメンをチョイスできるのだが、まずはイチオシの「はまんど」でいってみる。肉と魚のダブルスープ。背脂は浮いているものの、あっさり。もちもち平麺で提供。
魔味を感じるラーメンではないのだが、素材を吟味して透き通った味を追求しているのが伝わってくる。この手のラーメンは、たいがい700円~800円くらい取るがここは500円台と、極めて良心的である。
シナチクと海苔が非常に美味しい。ここはぜひ再訪して他のメニューも食べてみたい。接客もよかった。
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夕刻、まだ明るいうちに松山の定宿T横に投宿。折りたたみ自転車で街へくりだす。映画は18:30からなので残念ながら道後温泉に入る余裕はない。1時間ちょいの空き時間、「蔵元屋」で一杯。
西条の地酒を中心に攻めてみる。つまみはもちろん「ひめがいの干物」だ。これが本当にすばらしいのだ。いわゆる「バカガイ」「青柳」というやつなのだが、ここ愛媛では瀬戸内産のそれを干物に仕立て、ネットなどでも販売している。他の地方(東京湾も名産である)では干物をつくらないのだろうか? 不思議である。ちなみにそんなに安いものではない。これで400円である。
でも地酒はワンショット100円から高くても300円なのでいいのだ。
愛南町産のイワシの丸干(300円)も追加。
ここはなんと昼12時から営業していて「日本百名居酒屋」の太田和彦も絶賛している立ち飲み屋なのである。愛媛の酒蔵の位置が描いてあるマップがあって冷蔵庫には銘酒がずらりと並んでいる。
外に出るとまだ明るい。路面電車が走っているのが旅情を誘う。
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さて、映画は松山駅からちょっと歩いたところにあるアーケードに面した「シネマルナティック」というところで行なわれた。1954年、アメリカの水爆実験による第五福竜丸の被曝は有名だが、その他にも被曝していた船・船員だちがいたのである。それを、愛媛のローカル局のディレクター、そして高知の元高校教師が追い続けたドキュメントだ。3.11を契機に、この作品が重い意味をもって浮上してきたわけである。
残念ながら観客は少なかった。しかし、やはり見に来てよかった。
当時、水爆実験の海洋において、20代で被曝した漁師たちは、ほとんどが50代で癌死している(しかもぶらぶら病でと長い闘病生活を送った)。その妻たちが吐き捨てるように言う。高度成長期、日本は「魚と石炭」で国力を増進していた。だから泣き寝入りするしかなかったのだ、と。私はやはりドキュメンタリー映画の「三池」を見に行った日のことを思い出した(こちら)。
オタク全盛のこの安逸な平成の世は「三池」や「X年後」の犠牲の元に成り立っているのだということを、オタクたちに伝えるにはどうしたらいいのだろうか? これらの映画やDVDを学校で放映したらどうかと思うのだが、この腐りきった公的教育情況では絶望的ではないか。
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さて、飲むか。
映画館までの道のりで発見した店。とんそくを看板に上げた店を初めて見た。とんそく大好きな私としては見逃すわけにはいかないのだ。
400円。茹でたのとそれを焼いたのがある、というのでとりあえず茹でを頼む。焼き肉屋で出るような辛みそは添えられていない。なので味塩で食う。美味い。
とりあえずのビールを飲んでいたら、店のお客さんに声をかけられた。その人は蔵元屋の常連さんで、私たちを目撃していたというのだ。お互い2件目でバッタリ、というわけである。ここにはよく通われているというのでオススメを教えてもらい「シンサシ」(牛の心臓の刺身)を注文。
これがすばらしかった。臭み、脂っこさはまったくない。馬刺のようでもあるが、歯ごたえがあり、繊細微妙な旨味香りがある。つけだれは塩・胡麻油・一味唐辛子・醤油の混ざったものだ。
ビールの後に頼んだマッコリがまたすばらしく美味い。私たちは、神流アトリエで数種の原料からなる「どぶろく」をつくり賞味しているから、この手の濁り酒は真贋がすぐわかる。甘さが透き通っている。
せっかくなので焼いたとんそくも注文。これが、ただ茹でとはまったくちがったトロトロの食感になる。その香ばしさとともにちょっと驚き。
かなりディープな店だがyuiさんも気に入ってくれたみたいっす♪ 次回はカウンターで「みみ」とか「ホルモン煮込」とか食べてみたい。あとラーメンもあるらしい。
サービスで出たキムチがまた美味しかったなぁ。朝鮮半島の本物のキムチってこういうものなのだろうか? 旨味調味料や砂糖に頼らない、本当の発酵による甘みなんだな。
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最後にもう1軒。お好み焼きの店へ。前にも書いたけど、松山の飲屋街は本当に美しいのです。ゴミがまったく落ちていない。ネオン看板の雰囲気がいい。小津さんの映画で見た昭和の飲屋街の雰囲気なのだ。
焼きそばと豚玉を頼んだ。
焼きそばは珍しい塩味。食べ進むうちにお焦げができてくるのがまた美味しい。
お好み焼きは、
広島風だった。
高松では大阪風が主流だが、松山は広島文化が入っているんだな。これは大阪風のお好み焼きとは別の食い物である。様々な具材の旨味を吸った大量の蒸しキャベツを食べる料理といったらいいか。
高松はどうですか? こちらも不景気でねぇ。と嘆くおばちゃん(ここで店をひらいて22年になるそう)。
「美味しかった~また来ます」といって店を出た。
映画もよかったが、いい店いい人に出会えたのもよかった松山の旅。
道後温泉に入れなかったのが残念。