「井戸の水」という昔の京都住まいのおばあさんのエッセイから。
それは、神輿洗いの日のことやった。十日夜、祇園さんをお出ましになった裸神輿さんは、四条の大橋が神事を済まして、またお戻りになる。そのとき、お神輿さんに続いて、大きいお松明(たいまつ)も通ったので、四条通には、燃え尽きたから消しがいっぱい落ちていた。わたしらは、それを拾いに行って、だいじに持って帰り、井戸の上に水引をかけて、吊るしたものである。それは、井戸の水に虫がわかんまじないやったっそうな。~中略~
近ごろ、井戸水が使えるおうちは、だんだんと少のうなってきた。近くにビルが建つと、水脈が断たれるためか、それとも、ビルが地下水を冷房用などに汲み上げてしまうのんか、とにかく、井戸はかれた。そして、ポンプの管を打ち込んでも、水は出んようになってしもうた。