不思議なことにこの雨の多い日本で、建築の周辺に関わる雨水のゆくえは設計段階では曖昧である。建築自体に「雨仕舞い」という概念はあり、そのディテールはよく研究されているが、その先の排水処理は抜け落ちており、杜撰でさえある。
新興住宅地のようにコンクリートとアスファルトで固められ、地下埋設の配管に明快に流れ落ちるような場所ならいいが、土が露出した場所や建物に庭が連続している場合は、雨跳ねや水の停滞が建物を痛めてしまう。
雨落ちはコンクリートのU字溝にグレーチング、その上にゴロ太石という設計だったが、U字溝をことごとく壊して成果を出している矢野さんがそのまま受け入れるはずもなく、タクシーの中で描いてきたというイメージ図(下)が工程会議を通った。
しかし既存の配管や最初に配置したコルゲート管との交錯、枡への繋ぎなどがあってややこしく、メンバーと合意が取れず苦労している。
今回の主役は「土モルタル」である。セメントに土と粗腐葉土、骨材をまぜたものだ。
粗腐葉土が入ると割れ防止になり水は浸透しにくくなる(通気性はある)。
埋設前にはやはり炭。
ここはダブルでコルゲート管が入る。池のオーバーフロー管(塩ビ管)が交差し、それは水道屋さんが取り付けるのでその配慮も必要になる。
竹などの有機物がかなり入る。その上に炭。
土モルタルを三つグワで均す。
ラス網を敷く。
さらに土モルタル。
そこにコルゲート管を半分埋め込むように配管していく(セパ止め)。
モルタルが乾いたらこの上にゴロ太石を敷き、両側にササやリュウノヒゲなどを植栽する。U字溝と違うのはまず重量が軽いこと。そして浸透性と通気性があることだ。周囲の土との連続性があり通気性があるので、植栽も暴れることなくその管理も楽なはずである。
空き時間に矢野さんと周囲の敷地を観察に回った。来年の開花が楽しみなしだれ桜。
てんぐ巣病のサクラも回復に。
田村公三代の墓周辺も泥ホコリの跡がすっかり消え、
苔がしっかりと現れてきた。健康そうな質感と色合いである。
キクイムシの粉を噴いていたナラ枯れも回復に向かっている。
皮に生気が戻り傷を巻き込もうとしている。しかし、通水・通気をすることで劇的にナラ枯れ・マツ枯れが解消していくとは・・・。日本の森林研究者はぜひともこれに着目してデータを取るべきだ。
下草を常に地際で刈り過ぎているため、中低木が生える間がない。そしてコナラはポプラのようなノッポ樹形になってしまっている。地際で強引に刈られた草は常に粗根を出しているので、コナラも水平の根を出しにくいのであろう。地上部の形は地下の反映である。このような視点も現代林業には欠けている。
以前、講座で点穴を掘ったという場所へ。ヤブ化が収まり、それぞれの固有の植物の形が見え、空間ができている。
この場所の点穴は、時間も材料もなかったので穴を開けただけで炭や有機資材は入れていない。しかし、それでも絶大な効果を発揮している。
穴の中にはスギゴケが生えてきていた。
竹林もすっきりと、奥の風景が抜けるように。
スギもそうとう枯れ上がっていたらしいが、枝からも盛んに胴吹きを初めている。
空気が通り始めることでヤブ化が鎮静し、植物はそれぞれ立体的に棲み分けを始め、穏やかに成長していく。2回目の屋久島講座を思い出させるような、草・灌木・高木の美しい配置。ヤブをなくそうと草刈りを繰り返すのではなく、点穴を配置するなどして地面の空気通しをすることが大切なのである。
夕刻、雨が上がってにわかに陽が射し始める。矢野さんから「この紅葉を撮っておいて」と指令がくる。
息が通い始めると紅葉は美しくなる。来年はさらに鮮やかになるだろう。
通気・通水の観点からすれば、建物と敷地は一体のものである。建物周りが良くなれば、敷地も良くなる。
土木も林業もそうだが、日本の現代建築には極めて重大な改革の余地が残されている。