福島県三春町「福聚寺」再訪2回目・前編/庭木と苔


早朝、バスが郡山駅に到着。三春までは1時間に1本というローカル線で行く。昔は「磐越東線」と呼んでいたけれど今は「ゆうゆうあぶくまライン」という愛称がついている。ちなみに郡山は大学の4年間住んでいた町なので懐かしいが、もう40年も昔のことなので駅前には記憶に残るものはまったくない。小雨だった。三春駅からタクシーで福聚寺へ。

矢野さんがまだ到着していないというので、現場の施工具合を見たあと一人で敷地を回ってみることにした。紅葉がなかなか綺麗である。

墓地の方に回り込んでみる。

新しい建物に囲まれた池は・・・

前回(10/2)よりもさらに透明度をま増しているのだった。

矢野さんが到着したが、しばらくデスクをこなして、ようやく現場に参上。

打ち合わせが一段落すると、住職の奥様が、池のある中庭の庭木の形がイヤなのでどうしたらよいか? と矢野さんに問うている。いわゆるお屋敷などでよく見る剪定がされているのだが、奥様はそれが不快でいたたまれないのだという。これは私も同感である(若い人たちだって皆そうであろう)。

矢野さんはそのイチョウを哀れむかのように「詰め過ぎている。もっとゆるめる剪定をしなければ」と言った。「これは坊主頭の丸刈りと同じで誰でもできる」つまり何も考えずにできる剪定だという。

矢野さんのやり方は(これが本来の剪定だと思うのだが)、その木の自然樹形に見合った形で発展させる。庭の構成の観点から、そのベクトルの差し引きを考慮することはあるにしても、固有の樹の本質を残しながら庭空間を創造していく。これは考えようによっては大変自由度の高い剪定だが、木に対する知識や、空間・美的感覚などの力量が問われるのは言うまでもない。

一般に「プロの技」と思われている幾何学的な形に枝葉を詰める庭木は、記号として考えることなく簡単にできてしまう。もちろん剪定自体のテクニックは要るけれども。京都の庭園もしかりだが、私たちはそのような庭木を当たり前のように思っている。実はそうではないのだ。どこかの時代にこの形骸化したやり方にすり替わってしまった。そのほうがラクに簡単にできるからである。

矢野さんの話を聞いて長年の疑問が晴れた。私はかつて京都の庭についてこんな文章を書いている。

前々から疑問に思っていたのは、庭を純粋な空間芸術と考えるとき、樹木が育ってしまったらどうなるのか? ということだ。作庭のときは凄い神経を使っていても、何十年も経ったら木がでかくなってバランスが崩れる。

作庭家が死んだら後続の庭師が管理することになるのだが、その庭師のセンス次第でどうにでもなってしまう。

自然樹形を重視するなら、当然のごとく土の中の空気が詰まらない作庭をする必要がある(でないと暴れて自然樹形に収まらない)。だから庭師は灯籠や大石の据付にも地面を締固めてグリ石を敷くようなことはしないのだそうだ。

また、木の植え方(向き)には確固たる法則性があり、それを誤ると後々の育ち方に大きな開きが出てくるという。それは枝ぶりを見ればすぐに解るのだが、現代ではそれが正確にできる造園業者は少ないという。

そのあと、奥様は敷地の変化に対する感想を言われた。とにかく以前に比べ苔がすごく増えたのだそうだ。苔というのは育つまでに相当な年月を必要とすると考えていた私は、前回の再訪でも矢野さんに教えられて驚いたのだが、それはそれは劇的な変わりようであるらしい。

本堂の前にも苔が増えたというのだが、その本堂の基礎を見て驚いてしまった。石場建ての基礎柱が石の接触部分から色変わりしており、乾き始めているのがわかる。その変色は足固めの貫にまで及んでいるのだった。

無垢の木で建てた新築の家に住んでいると、乾燥の過程で「ビシッ」という梁に割れ目が入る音を聞くことがあるが、棟梁はそのような音を本堂の中で聞いたそうだ。

本堂のわきの水路は側面は石積みなのだが底にコンクリートが打たれていた。矢野さんはそれを重機で取り去って土の水路に戻した。すると、石積みやアスファルトの隙間から雑草や苔の緑が萌え出てきた。

もちろん、今年6月に「扇の要」をかさ上げしたことも大きく影響しているだろう。そしてこの下と両サイドにはコルゲート管が(とくに両サイドはダブルで)入っており、その埋設にも有機物と炭が大量に使われている。

停滞していた、あるいは走り過ぎていた「水脈・気脈」が作動し始めることで、乾くべきものは乾き、一方で湿潤さを求める植物たちが生き生きとよみがえる。それらが「見ていて美しく感じる」ものであることが不思議である。

しかし、大地の再生手法は、その劇的な効果とは裏腹に、施工後の外観が地味過ぎてアピールしにくい。だから、このようにして記録・ドキュメントをしっかり残しておくのは大事なことなのだ。

福聚寺2018.6.14/溝埋戻し、石の配置、枡設置

(続く)


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