ある堰堤


一日じゅうイラストの仕事。夕刻、藤岡まで降りて買い物。途中、スーパー林道の入り口にある沢の堰堤を写真に撮る。昨年から半年くらいかけてダラダラと工事をやっていた砂防堤であるが、できたとたんにすでに天端まで土砂で埋まっている。しかし、ここに堰堤を作る意味は全くないと思うが・・・。一帯は間伐遅れの線香林で、雪折れの自然間伐が多数入っており、倒木がずいぶん見られる。そして間から常緑樹が生えてきて中層を満たし始めている。この堰堤一個で工事費数百万はくだらないだろう。

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近所の林家Kさんの話では、スーパー林道の一帯は道に対して縦に細かく山主が分かれているそうで、森林組合の作業班は手を出しにくいという。数年前、道の続きで地すべりがおき、国の億単位の工事が行なわれた。神流ダムの対岸でも地すべりで堰堤がいくつも造られている。ダムの上流ではやはり対岸の林道が崩壊し、半年以上かけて土木工事が行なわれている。また、最近は河原に重機が入って何か工事をさかんにやっている。

その工事費の額面は膨大ものになるのであろう(国も赤字になるわけだ)。僕もイラストだけで食えない時代に工事のバイトをやっていたことがあるが、何か破壊に手を貸しているようで虚しい思いをしたものだ。工事の方々も、いわば金稼ぎの義務的に仕事をこなしているだけであって、生き甲斐が感じられないのではないか。

Y先生に聞いた話では、上野村で暮らしていた時分には、沢にカジカがたくさんいて産卵期には水中の岩が卵で赤く見えたという。カジカは非常に美味しい淡水魚だが、卵も食べられる。堰堤が造られるとそこに泥砂がたまり、恒常的に濁り水を流すようになる。石の間に泥砂が溜まり、河床がフラットになって、魚の住処や産卵床が失われる。堰堤がないときは、たまに来る大雨の水で泥が流され、石のすき間の泥が洗い流されていたのだ。

最近『アユの本/変化する川と鮎、天然アユはどこにいる』高橋勇・東健作著(築地書館)という本を読んだが、それによるといま全国の川の清流域で異変が起きてて、水中が常にうっすらと濁っているという。橋の上から見たのではその変化に気付かないが、潜ってみるとそれが良くわかるというのだ。四万十川も例外ではないという。原因は特定できないが、僕は「堰堤の造り過ぎ」と「人工林の間伐遅れ」が最大の原因だと思う。そして下水問題である。

現在の荒廃人工林はすでに表土を使い果たし、また雨で洗い流され、一見はスギ・ヒノキの落ち葉でかぶさっているけれども、雨のたびに土砂を流し続けている。粘土やシルト層が流れると特に長い時間濁り続ける。森の表土が豊かな時代、または豊かでなくても草が生えて土の流れが制御されていた時代は、濁りはさほどでもなく、濁ったとしても、それは腐葉土をたっぷり含んだいわば「環境に良い濁り」であった。濁りの引きも早かった。

しかし、いまの山から出る濁りは粘土・シルト層の粘っこい微細な岩石濁りであり、しかも砂防堤にたまってから恒常的に濁りを流し続けている。これらの土木施設はいっときの土石流を軽減する効果はあるが、河川全体の環境にいいことはひとつもない。ここで思い出されるのは伊勢神宮宮域林のことである。この山から流れる川は増水も少ないが濁りの引きも早いという。そのワケは、

1)強度間伐施業で広葉樹が生え、表土が常に補給され土砂の流出が守られること。
2)河畔林に広葉樹のベルトを残して、ここが浄化の緩衝帯になっていること。
3)林道(いちおう国道なのだが)に側溝がないので、雨水が一カ所から放水されないこと。

実証「五十鈴川」

民家や農地がある場所では排水にも気をつけねばならないが、実際には必用以上の肥料やケミカルな除草剤が日常的に使われている。また、配管材の普及や側溝のコンクリート化で、汚水が自然浄化されないまま河川に放流されることになってしまった。そして、合成洗剤メーカーがテレビの大スポンサーになっていて、ドラッグストアがこれほど繁盛している現状では、その対策はいかんともしがたい。

微生物による浄化は「タダ」なのだが、そんな学習もないまま日本は西洋近代土木の工法を一気に採用して、その会社や雇用体勢が膨らんでしまった。森林と山村には、現代の未解決な問題のあらゆる答が凝縮されている。

ん。なんか新聞の「社説」っぽいカタイ文章になってしまったナ。

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msn.地域ニュース「幻の魚になったカジカ」の中で老人がカジカの味を「脂っこくないウナギみたいだった」と回想している。それを話すと「そんな味なら食べてみたいな」と相方が言った。

「ゴルフ場の建設ラッシュと反対運動/県独自の規制をしていない群馬県では、1988年夏の集中豪雨の際、藤岡市日野地区で(ゴルフ場)造成中の土砂が流出して、近くの河川の名物のアユがいなくなった。ゴルフ場は漁協に補償金を払い、因果関係を認めている」河野修一郎『日本農薬事情』(岩波新書114・1990)p.142。


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