西上州の名山、御荷鉾山の近くにわがアトリエはある。ここは神流川沿いの国道から2キロほど山に上がったところであり、さらに上に伸びた林道をたどると、そこにスーパー林道なるものが走っている。この御荷鉾林道、関東一のロング林道などといわれ、オフローダーのツーリング姿もよく見かける。
「スーパー林道」とは
「奥地の森林資源開発を主目的とし、過疎振興をも念頭に」1965年から着工(事業主体は森林開発公団)、90年度まで全国23路線、1,080キロを完成させた特定森林開発林道事業。
御荷鉾林道もその一つである。未舗装とはいえ(現在は舗装部分も多い)幅4.6メートルという林道の出現は、当時は画期的なことであり、まさに「スーパー」な林道だった。が、その環境破壊度も計り知れない。とはいえ、われわれ山村に住む生活者にはたしかに便利な林道なのだが、結果として林業振興や過疎の歯止めには結びつかなかった。
この御荷鉾スーパー林道を行くと地元の森林組合作業員がちょぼちょぼと仕事をしている姿も見かけるが、いちばん利用しているのは御荷鉾山や雨降山を登るハイカーや山菜採り、そして前述のライダーたちかもしれない。ここにけったいな看板をみつけた。林道南面の鮎川支流の砂防堤工事の位置図である。その数の多さにも驚くが、
「森林地帯のコンクリート構造物における景観デザインの可能性を追求するため、構造物ごとに形を変えてデザインしています」
とある。
ようするに誰も見にいくことのない山奥の砂防堤をデザインして遊んでいるのである。さらにこの林道から藤岡・甘楽側に下ろうとするとき、不思議な光景が出現する。なんと林道が2車線になり幅6m以上の国道並の道が現れるのだ。この区間は最初の集落まで距離にして5kmほど続き、そこからはまた細い林道に変わる。車幅が大きいと、このような山岳地帯では切り土・盛り土の量が多くなり、法面の崩壊を防ぐ付帯工事が大幅に増える。とうぜん工事による土砂の流出も大きい。ここでは地すべり地帯のためかアンカー工法や集水井を使った排水溝まで設けられている。
細い林道に挟まれたこの区間が2車線になる意味はまったくない。工事のための工事なのだろう。それにしても莫大な予算が動いているのは確かである。この流域、鮎川というからには、昔は天然のアユが遡上したのではないだろうか。コンクリートの構造物は川をダメにする。コンクリートからでたアクが石の表面を覆う。すると藻がつかなくなる。水棲昆虫の餌を奪う。工事の土砂が淵を埋めてしまうと、魚のすみかが失われる。
こうして、片や山林荒廃、片や無意味な土木工事、というダブルパンチを受けて、山河はひん死の状態である。これはここだけの問題ではない。そして、産業廃棄物の捨て場に選ばれる場所さえある。大多数の山林所有者がやる気を失っている今、一部の篤林家などの特殊な例を紹介しても意味がない。それは所有規模が大きくて資本や人脈がなければ出来ない方法だからである。
この狂気の連鎖に歯止めをかける意思のある人たちを、ここ数年でどれだけ増やせるか? 未来はここにかかっている。