カナダでのトウヒ(針葉樹)森林での話。
トウヒの森は40年から120年のサイクルで害虫(ハマキガの一種)の大発生がおきる。すると森に光の穴が空き、その害虫を食べる鳥や昆虫が増えてその害虫は激減し、ふたたび森の再生が始まる。
ところが木材原料を枯らしたくない人間はDDT農薬でその害虫を先に殺そうとした。すると森の密度が高くなり、害虫を食べる鳥や昆虫が中に入れなくなって、さらなる害虫の大発生を招いた。
そこで今度は、有機リン系のフェニトロチオンを何万エーカーという北方樹林に散布した(1970年にカナダ政府の指導による)。するとこの薬剤はブルーベリー産地のマルハナバチを殺してしまうことになった。受粉バチを失ったブルーベリーの生産高は何年も激減した。(『ハチはなぜ大量死したのか』ローワン・ジェイコブセン/文藝春秋2009))
日本のマツ枯れ防除の薬剤散布でもずいぶん被害を受けた虫たちがいたのだろうな。
『図解 これならできる山づくり』(鋸谷さんとの共著/農文協2004)が9刷目になったと、出版社から連絡が入った。
共著者の鋸谷さんは県の職員を辞され、福井の民間企業「フォレストアメニティ研究所」副所長をされ、勢力的にご活躍のようだ。
風聞によれば先日、鋸谷さんの元に養老孟司氏が会見に来たという。養老氏は昨年、天野礼子とともに「日本に健全な森をつくり直す委員会」を結成されたそうで、これをネットで調べてもこの会の趣旨が出てこないので、さらに調べてみると
「1、2年のうちに提言を出そうと思っています。各地で委員会を開き、そこで林産業界の人たちと交流し、間伐材をどうやって世の中で使っていくかを考えていこうとしています」
という天野礼子のインタビュー記事をみつけた。
彼女は相変わらず林業再生に鼻息を荒くして、そのみちの様々な大御所に寄り添いつつ、さらに坂本龍一やCWニコルなど森に関わる著名人をこの運動に巻き込むつもりのようだ。ああ、心配だなあ(笑)。
鋸谷さんは『図解 これならできる山づくり』の中で、人工林の中に侵入する広葉樹の重要性について書いているが、私も『図解 山を育てる道づくり』に中でこう書いた。
「道の維持のためには、中層木としての広葉樹と共存するような森づくりが望ましい」「道づくりと山づくりの思想は、ひと続きのものということができる」
と。
これに相反するのは、
「下層植生の乏しい暗い人工林で、必要以上に目の詰まった材を指向するような施業、極端な完満通直材をつくる『磨き丸太生産』の現場」(同書50ページ)
などである。
もし、この辺りをしっかり理解しないであまりに林業よりに走りすぎると、山林崩壊という大きなしっぺ返しを食らうだろう。それは持ち主の山だけでは済まされない大惨事になる可能性もある。林業家や学者の言うことなど、その人がいくら有名だからといって頭から信じないことだ。
いま、日本の人工林は、あまりにも特殊な曲がり角に来ているのだから。そして日本の山はヨーロッパと違って常に豪雨にさらされる危険があり、しかし光空間をつくるとすぐに植物や雑木がそこを補完するという優れた長所を持つ。
日本の山の表土はとても優秀なのである。林業を語る人は、まずそれを頭に叩き込まねばならないはずだ。
8月7日のブログ記事に書いた『明日なき森』の後藤伸さんは
「本来、植林は、大きな山でもその1/3くらいしかできないんですよ。それ以上したら間違いです」「これを破って山という山を全部植林しました。だから、今ある植林の2/3は間違いです」と語っている(同書65ページ)。
山に関わる人はすべからく謙虚であれ! だ。
もう一つ、気になる「米不動産大手(クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド)、日本市場に参入=破綻の運用会社買収、国内最大級に」の記事(jiji.com 8/25)
一見、林業に関係ないようだが、いま、国内の大きな山持ちが手入れと相続税の重圧に耐えきれず、広大な山林を売却して始めている。
買い手は山とは全く無縁の金余り企業だ。これが他国の不動産業者に転売されないともかぎらない。
事実、最近の『林業新知識』(2009.9)誌の記事では、ある村に外国人の代理人らしき人物がやってきて「山を土地ごと売ってほしい。市場価格の◯倍は出す」と言ってきたという。
まったく、山のことが気になって気になって、のんびりカフェなんかやってる場合じゃないかも、だぜ。
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