足尾松木沢へ


昨日、熊森群馬支部長と話しているとき酸性雨の話題になり、足尾銅山の植林の話が出た。銅の精錬による煙害(酸性雨)で荒廃した無立木地にボランティアが植樹しているのが有名である。虎丸さんが大いに興味を示し、東京の山行きの予定をキャンセルして足尾に向かうことにする。

現場に入る前に足尾町にある「NPO法人 足尾に緑を育てる会」の事務局で話を聞くことにした。スタッフの神山さんが丁寧に応対してれいろいろと情報を入手。ここでは古くから国土交通省や関東森林管理局の基盤整備による治山・植林事業が行なわれてもいるので、パンフレットも多数入手した。

松木ダムが見えてきた。このダムの奥が渡良瀬源流の松木沢である。かつては煙害と山火事で荒廃した無立木地の岩山が続いていた。

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本来は公害地なのであるから人に見せる場所ではなかったが、いまや植林と環境学習の「聖地」であり、ダムの下には「足尾環境学習センター」が建てられている。虎丸さんに中を見ていただいた。

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足尾ダム・・・実は今から四半世紀前の1984年に私はここでボーリング工事のアルバイトをしたことがある(東京での修業時代に様々な肉体労働のアルバイトをしていた)。当時の松木沢はすべて赤茶けた岩山であった。まったく知識のなかった私は、その異様な光景に衝撃を受けた。その後、この松木沢は「日本のグランドキャニオン」とまで呼ばれるようになり、その日本離れした廃墟的風景で話題になったのである。

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足尾銅山周辺の山では森林の乱伐に加え、煙害と山火事でとくにこの松木沢が荒廃した。表土がなくなったことに加えて亜硫酸ガス(降雨によって硫酸になる)による強酸性の雨が微生物を撃滅させたといわれる。

松木村という集落もあったが明治期に廃村になった。森林消失と崩れた土砂はたびたび洪水をおこした。また渡良瀬川から取水する農地や。下流域の土砂が堆積した田んぼで稲が立ち枯れる被害が続出した。田中正造が農民運動の中心となって、最後は天皇に直訴までした話は有名である。

私たちの視点は「本当に植林が必要なのか? 植えなくても緑が再生しているのではないか?」ということにつきる。その証明はいたるところで見られる。

しかし、植林に加えて、ヤシャブシやハリエンジュなど砂防樹のタネまき、ヘリコプターによる肥料やタネの撒布なども行なわれているため地元の人でさえ「人為によって緑が回復している」と思い込んでいるようだった。いや、むしろそう思い込んでドラマをつくりたいのかもしれない。

埼玉の小学生たちがバスで植林に来ていた。国土交通省による植林イベントでは小学生が30人で1本を植えるとのことだった。過剰とも思える土留めや植林、これも私たちの税金が使われている。

ところでなぜ銅山側の企業に責任を取らせないのか? というのが虎丸さんの疑問だったようだ。戦争があり、国策で銅が必要で国がらみで公害が垂れ流されていたとはいえ、訴訟をおこすべきではないのか? 水俣のように。

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岩の棚には樹木が育ち苔が育っている。あきらかに自然の為せる回復の様子がみえる。ボーリング工事をしていた河原にもススキなどがびっしり生えている。土のないガレ場のような山は豪雨が降れば汚染物質は流れやすいだろうから、そこに崩壊しない棚やくぼみがあれば、自然に草木が生えてくる。日本の自然の回復力に驚かされる。

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1973年に足尾銅山は閉山したが、あらためて足尾銅山の年譜を見ると、煙を出す精錬事業は1988年まで行われており、本山製錬所での廃棄物焼却事業はさらに2002年まで行われていた。私の見た1984年はまだ精錬所から煙が出ていた頃だ。ただし1956年自溶製錬設備が完成し、以後は亜硫酸ガスの排出は減少したといわれている。

1956年、足尾製錬所の設備が改良され、亜硫酸ガスの放出が減ったと同時に、製錬所の向かいに位置する龍蔵寺では木が生えるようになったという(水谷奈美子「足尾銅山がもたらした煙害と現在への課題」)。現在、松木沢の最奥部は緑化しないで「負の遺産」として裸地のまま残しておく計画だそうだ(ここは沢風の流れが止まる最も酸性雨の影響が大きいところ)。しかし、崩壊地以外は徐々に緑が戻ってきてしまうのではなかろうか。

実は新著の取材のため9月中旬に足尾を撮影していた。下がそのときの写真である。私は25年前、手前のススキが生えている場所でヘルメットをかぶって仕事をしていたのだ。当時は真夏だというのに足元は石と砂しかなかった。そして目の前には草一本生えていない荒涼とした赤茶けた岩山が広がっていた。

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あなたはこの緑がすべて人為によるものだと思いますか? ちなみに現在の足尾では植樹したあと下草が盛んに生えてくるので草刈りの手間も必要だそう。人為による土留めや土を運んでむりやり植林することが、実は大きな災害を誘発することも付け加えておこう。岩の上に黒ボクが載った土質の山が、今年大きく崩壊したことを思い起こしてもらいたい(こちら

桐生に戻って遅い昼食は「芭蕉」のランチ。

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虎丸さんは芭蕉の内装に大いに興味を示され写真をたくさん撮っていた。移動中の車の中でも虎丸さんの有意義なお話を聞くことができた。お会いできて本当によかった。


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