地質や土壌についてクボタの企業PR誌『アーバンクボタ』(1969年~2003年)が解りやすく便利だ。
紀伊半島の大部分は「四万十帯」なんですね。
四万十帯というのは断層を含んだ砕屑岩 (砂岩や泥岩、頁岩) 類が多い。木は育ちやすいが崩れやすい地質とも言えるだろう。崩壊地の写真を見てもサラサラとした泥や砂に丸石がゴロゴロ混じっている感じだ。
森林土壌はどうか? つまりこの地質の上に載った植物由来の表土の種類である。
こちらは「褐色森林土壌(適潤性/乾性)」といって、最も森林に適した優秀な土だ。そりゃそうだ。シイ・カシ林は土壌動物が最も多いといわれている。雨が多く、温かさも程よい。
一般に多雨気候下では森林が安定植生となる。が、寒い地域では落葉などが分解せずに土壌の表面に堆積してポドゾル化の原因となる。逆に熱帯などでは落葉などは多量になるが分解が速いので大部分は消滅してしまって腐植は少なくなる。
この中間の地域では落葉は適当に分解し、腐植として土壌の中に滲みこみ適度に蓄積される。褐色森林上はこんな条件のところに生成される。紀伊半島はまさにこんな場所で、広葉樹林の生育には最適な所だった。世界でも稀に見る土壌条件の揃った所だった。だから巨木がたくさんあった。粘菌もいた。熊楠が激賞し住み着いたのも解ろうというものだ。
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ところで、地質や写真の揃ったいい資料をみつけた。
2011年 台風12号の降雨による田辺市の大規模斜面崩壊と崩土
台風被害直後に白浜の地質調査会社が作ったレポートだ。
やっぱり、森林のことにはまったく触れられていないが、人工林の密植状態、荒廃状態がよく解って興味深い。
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さて宇江さんの『昭和林業私史』を読み進めているが、紀伊半島の人工林が密植である記述を見つけた(131ページ)。
ところで、私どもの南紀州でも、後には1ヘクタールに5,000本以上も植えるようになるが、昭和30年代までは3,000から3,500本と、いわば疎林方式であった。
やはり、吉野林業の慣例である「密植」の影響下にあるのだ。吉野では1ヘクタール12,000本植えという超密植もやられているわけだが、アベレージは1ヘクタール6,000~8,000くらいが普通なのか?
ということは、間伐の手入れを怠るとあっという間に線香林状態になってしまうということだ。実際、写真をみると尋常ではない荒廃林が多い。
そうして、世界に冠たる「褐色森林土壌」の表土が、大雨の度に流されている。もちろん木は太れなくてヒョロヒョロ。これはもう、世界最悪の森林施業の失敗例といっていいのではないか?