四国の北部沿岸線を通る国道11号線を、高松から西へ、松山方面に向かうと、ちょうど愛媛県境辺りで讃岐平野が終わり、大きな山稜が迫って来る。そこから先は、石鎚山を抱く四国山脈を背にした海岸線の平野部を、狭い2車線道路が進んでいく。
やがて川之江の製紙工場の煙突群が見えて来る。ここは大断層である中央構造線の上でもあり、讃岐山脈の尾根の始まりと四国山脈がぶつかる所で非常に複雑な地勢をしている(いま川之江市は合併し「四国中央市」という名前になった)。
その11号の川之江のやや先、伊予三島から国道319号が分かれて峠を越え、金砂湖(吉野川の支流・銅山川をせき止めたダム湖)へ抜けると、そこから銅山川に沿って上流に県道が伸び、旧別子銅山跡を超えて新居浜に下りることができる。
海岸に近いとはいえ、最初の峠(法皇トンネル)の峰は800m近くあり、東赤石山は1,706m、笹ケ峰は1,859mもある。この間の谷を行くコースは変化に富んで面白く、別子ダムの上には別子銅山の荒廃跡を再生させた住友林業の人工林や展示館のフォレスターハウスがあったりして、私は過去に何度か足を運んでいる(|1|2|)。
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梅雨の晴れ間にそこを走ってみることにした。
最初のトンネルを越えるまで道が高度をどんどん上げていき、瀬戸内海が見渡せるようになる。この山稜は瀬戸内とはいえ讃岐とはちがって雨が多く、人工林がびっしりと並んでいるのだが、風雪害で木が折れたり小規模な土砂崩れがよく起きるところだ。写真はそんな風雪害でできたギャップに広葉樹が生え、混交林状態に変わりつつある斜面だ。
下の写真は、先日の剣山周辺への旅(こちら)で撮影した雪折れの入ったスギ林である。
拡大すると、折れて大きくすき間が空いているのが解るだろう。四国の人工林にはこのような風雪害がしょっちゅう起きており、それが自然のオノによる強度間伐になって、広葉樹が間に生えて環境が回復している山がたくさん見られる。
梅雨の雨で水量が戻ってきたようだ。
ミズキの白い花がいたるところに咲いている。
たくさんの昆虫が訪れていた。ツマグロヒョウモンが吸蜜にきているのが四国らしい。
一帯は中央構造線の南にある三波川変成帯で青石が基岩になっている(東赤石山に一部、蛇紋岩地帯がある)。ちょっとフライを振ってみたくなる川だ。
フォレスターハウスは休館日だった。トンネルを越えて別子銅山観光の基地で温泉のある道の駅「マイントピア別子」に立ち寄った。途中の下り道でまた双眼鏡を取り出して山の様子を観察してみる。
険しい斜面だが人工林化しているところも多い。が、さすがに尾根は天然林が残っている。
尾根にはアカマツやゴヨウマツ、あるいはツガなどの針葉樹が多い。
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ところで、スギやヒノキ、カラマツなど日本の人工林を占める針葉樹もまた、ほんらい自然状態では尾根に細々と残る樹種だ。針葉樹は広葉樹に比べて進化の遅れた木で、同じ場所では広葉樹に競争で負けてしまう。だから尾根などに追いやられる。これらの天然樹の年輪が緻密なのは、そのような条件の悪い場所で鍛えられながら育ったからなのだ。
ただし、これらの樹種も条件の良い場所で植林するとちゃんと育つ。だが年輪は粗くなる。だから密植で育てたいが、あまりそれをやりすぎると形状比が高くなって風雪害に遭いやすいし、林床から他の植物が消え、地力が落ちてしまう。だから、植える場所の見きわめや、間伐の技術が必要になる。
林業家の中には植林の木を放置することを、「年輪が詰まって育つからいいのだ」などと開き直って(あるいは木の生理が理解できていない)、間伐遅れを放ったらかしにしておけば密な年輪のいい木が採れる、などと勘違いしている人たちがいる。
そのまま木が折れずに、山が崩れずに、これから数十年も平穏に育つと思っているのだろうか?
そんな林家やお役人には
「フォレスターハウスに行って勉強してくるといいですよ」
と、そっと教えてあげてください。