ベイマツの真実/その3


ベイマツのことをを調べてみると広島にある中国木材(株)という会社が引っ掛かってくる。業界では有名で早くからKD材(人工乾燥材)を供給しているらしい。また福山市には東洋木材(株)、東亜林業(株)という会社があって後者のHPには「ワシントン州から32,000トンの船に乗って1年に9回運ばれ、松永港に水面貯木される」というようなことが書かれている。どうやら瀬戸内の港はベイマツの一大集積地であるようだ。

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一般的な住宅の場合、木材の種類はスギ、ヒノキ、ベイマツ、ベイツガの4種が使われることが多いが、そのうち横架材(おうかざい)はベイマツが使われることが圧倒的に多い。横に渡す木材には粘りが必要でそのためにも大断面になる。そんな材が安定して供給されるのは今のところベイマツしかないのである(最近は集成材の梁が使われ始めた)。

そもそも日本のむかしの家は横架材はほとんどがアカマツであった。それを四角く製材することはなく、丸太のまま、あるいはチョウナで太鼓落としにしたり8角断面にして曲がり材を使った。直線製材しないから繊維が切断されず、しかも形をアーチに使うから強い。直径200mm程度の丸太でさえ横架材として使われた。そんな古民家は田舎にいけばゴロゴロ見られたものである。

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ところが、マツ枯れで日本中のマツが大打撃を受け、しかも曲がり材を使える技術がなくなった。角材を使うとなると大断面が要求される。そこにちょうどいいタイミングでベイマツが売り込まれた。日本はべつに禿げ山というわけではなく、スギ・ヒノキが全森林の4割も植えられているのだが、それらは大断面が採れるほどの大径材はまだ少ないのである。前にも書いたが人工林施業のベイマツは50年生で出荷される。日本だって拡大造林のときのスギ・ヒノキはすでに50年生になっているではないか。なぜ太っていないのか?

不適切な場所に植えたので育たないというのもあるが、その多くは間伐の遅れ、間伐の失敗によるものである。今から11年前、2002年(平成14年)4月に「保安林制度」の指定施業要件の上限が引き上げられた。これまであまり伐ってはいけないと勘違いされていた保安林における人工林の間伐率が改正され、強度間伐による混交林化が法により推進されることになったのである(水源かん養や土砂流出防備のために伐採に制限をかけている保安林は、それが広葉樹・自然林ならいいが、人工林では荒廃してその機能が守れない)。

実はこの頃が、戦後の拡大造林で植えられたスギ・ヒノキ林、その手入れ不足を一気に解消できる最後のチャンスだった。まだ、枝下高に緑の生き枝が残り、樹高も伸びきっていない。ここで強度間伐(伐り捨てでもよい)しておけば10年後のこんにち、木は相当太くなっていたはずだ。しかも、環境も回復していたはずである。

鋸谷さんと私はちょうどその頃、強度間伐のマニュアル『鋸谷式 新・間伐マニュアル』監修:鋸谷茂 著・イラスト:大内正伸(全林恊2002年)を上梓した※。鋸谷さんとの出会いからこの本の完成にたどり着くまで実に大変な苦労をしたが、一方で(社)全国林業改良普及協会という林野庁の息のかかった出版社から、いわばこれまでの林業行政批判ともとれる本を出したのだから編集者の勇気も大変だった。けっか予想以上の反響があり、この本は異例の部数を伸ばしたのである。ところが、この強度間伐は実際にはそれほど広がらなかった。

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※この本は鋸谷さんの文章に私がイラストをつけたとよく勘違いされるのだが、文章も私が書いたものであり鋸谷さんは監修者である(『林業新知識』誌に連載したものが元になっている)。

新しいものには手を出さないという日本の行政やヒエラルキーに固まる研究者たちの体質もあり、日本の気候風土と人工林の本質を理解できなかったということもあり、ちょうどその頃、FSCやカーボンオフセットなどというお祭り騒ぎが起きたこともあり、そうして今日の悲惨な情況に至っている。

ようやく研究者のなかには人工林の混交林化を良しとする本を出す者が出てきたが、なにを今さらである。問題なのは「現場」なのだ。その混交林化を現場でスムーズに成し遂げるにはどうしたらいいか? が問題なのだ。

「伐り時がきた!」「国散材の時代だ!」「日本の林業はよみがえる」などと大騒ぎし、林野庁も「作業道をばんばん入れて間伐材を出しまくれ」などと旗ふりしていたのだが、昨年は丸太価格の大暴落がおきてしまった。なぜか?

ようするに木が細いので構造材としては芯持ちの「柱」しか採れない。しかもスギは死に節だらけで、ヒノキは支座を切る枝打ちの間違いでシミ入りも多い。かつ、住宅市場のニーズに合わせるために高温乾燥機にかけるので本当の木材としての質は良くない。油が抜けてパサパサで艶がないだけでなく、高温乾燥で節の周囲が劣化して強度が落ちる。住宅産業のトップがこれを知らないと思ったら大間違い。彼らはウェアーハウザー社などのベイマツを見、その管理技術と木材の質を熟知しているはず。外材が安いから負けているのではない。ようするに質の悪い細い丸太だらけでダブついているのだ。

結果として大手製材所が安く買い叩いた。横架材以外の、ようするに小・中径木から採れるありとあらゆる製品、柱、間柱、フローリング材、合板、集成材、ツーバイ材、杭、パレット材、チップまで、オートメーションで低コストで動ける補助金を突っ込んだ大手製材所が儲けている。

いいですか? 大断面が必要な横架材は、住宅で使う構造材全体のボリューム(材積)のかなりの部分を占める。要するに最も高価な心臓部である。それが未だに無垢では外材(ベイマツ)でしかできないのだ。聞くところによれば、大手製材所では400mmを超える大径木が投入できないという。オートメーション化されたツインソーには入らないのだ。板メーカーや集成材メーカー等の大規模工場でも同じだという。

ようするに彼らは国産の大径材はしばらく出てこない(利益が出ない)と最初から踏んでいたわけで、いま考えれば林野庁発の「森林・林業再生プラン」というのは老獪な出来レースだったのかもしれない。

というわけで相変わらずベイマツの需要は高く、比べて日本の人工林の環境は悲惨なことになっている。

 


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