久万林業のスギ


愛媛県久万高原町に今年2014年4月22日にオープンした道の駅「天空の郷さんさん」は大型木造でその建物だけでも一見の価値がある。なにしろ集成材をいっさい使っておらず、古民家の大黒柱ほどのヒノキ材が屋根を支えているのだ。

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私は今年の8月日と9月に訪れており、今日は3回目だ。1回目は砥部焼の工房へ建築中の家に使う手水鉢を買い求めにきた帰りだった。2回目は家に使う構造材を見にきたときに立ち寄った。


9月のその日、久万広域森林組合の製材・乾燥工場(久万事業所)で製品を確認し、ここのスギ材を使うことに決めた。高温乾燥材だが、芯割れも少なくて製品はかなりいいものだった(※)。なにしろ、そのストックの豊富さに驚いたものである。

いずれのときも近くの「久万高原の家モデルハウス」に立ち寄り、見学しながら担当者から話を聴いた。

(※高温乾燥材に対する懸念はさんざん書いてきたことだが、私がお願いしている工務店との関係や住宅ローンの問題から、構造材に低温乾燥材を使うことはきわめて困難であった。金額の高さもさることながら、材を扱う業者と納期や支払いの関係でトラブル続出となり、残念ながら諦めた)

久万の場合は早くから大中径木があったので、現状で梁桁材が出るのだが、それでも最初は山積みにした梁桁材を前に「売れるわけがない」などと批判もされたそうだ。かなり以前から、大断面の材はベイマツが市場を独占しており、近年では集成材(厚板を張り合わせて作る)が主流を占めつつあった。

ところがこのところスギの梁桁材の注文が増えているらしい。国産材を使おうという機運や、健康志向による無垢材への希求や、なによりベイマツや集成材に比べて肌が美しく清々しいことに、家をつくる人たちが気づき始めたのではないか。

久万では間伐補助金を用いるのはもちろんだが、販売を見越した生産体系を持っている。平成17年度から「久万林業活性化プロジェクト事業」と題して団地化を進め作業道を開設しているが、素材生産量は20年度あたりから急激に伸びている。

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生産の主力地である「久万事業所」では4面カンナ盤に直結したクレーディングマシンを整備しており、構造用製材(柱・土台・梁桁)の機械等級区分による評価ができるようになっている(スギ・ヒノキKD柱が月産600㎥、スギKD梁桁は月産100㎥)。

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モデルハウスの中にあるドイツ「オルスバーグ」社製の薪ストーブに火が入っていた。湯沸かしが内蔵されており、床暖房に利用されている。

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さて、以前にも書いているが、柱、桁、梁の構造材のうち、縦に使う柱に比べて、桁・梁に使う横架材は大きな断面積が必用になる。たとえば柱は105×105mm角で十分だが、桁・梁となると最低でも幅105×高240mmは必用になる(建設中の家では部分的に高270や300mmも使っている)。

これらを丸太から製材するとき、当然ながら柱材に比べて梁・桁のほうが太い丸太が必用になる。下図を見ていただこう。105mm角の柱なら直径170mmの丸太で採れるが、105×240mmの梁材なら300mm近い直径が必用になる。

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丸太から製材する場合、年輪幅4mm平均でこれを換算すると、柱は樹齢21年の丸太でできるが、梁・桁の場合は樹齢36年のものが必用になる。梁・桁のような断面では、柱に比べて15年ほど木の成育期間が長くかかるということだ。

しかし、拡大造林で大量のスギを植えてから、早50年が過ぎようとしているのだから、各地で一斉に梁・桁材が採れ丸太が収穫されていいはずである。

そうはならなかった。なぜか?

平均年輪幅4mmで育つのは、きちんと間伐をした場合のハナシである。実際は、間伐遅れの山が大多数だから、50年経っても直径が30cmに満たない丸太が全国の山に膨大にある。

私の調査では、1cmの幅の中に10本以上もの年輪が入っている丸太もある。ここ10年の成長幅がとくに少ない。10年で直径が2cmしか太っていない間伐遅れの人工林がざらにある(いくら「年輪が緻密なほうが材質がいい」とはいえ程があるというものだ)。

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同じ樹齢であっても、間伐するのとしないのとでは、太り方がちがう。また間伐の質によってもちがいがでる。昨今の過密林では、弱い間伐ではすぐにまた密閉してしまい、間伐効果がでない。間伐をやった意味がないのだ。

質はともかく間伐さえすれば補助金が貰えるという普通の森林組合の施業では、なかなか太い木は得られないのだ。久万林業の場合は先鞭をつけた大寶寺の住職に始まり、拡大造林時には良質材生産のための育林技術体系図を作って古くから間伐を推奨していたようだ。

愛媛県庁ホームページに見られる「上浮穴地方育林技術体系図」によれば(こちら)、吉野の体系に同じ5500本/ha植えからスタートするのだが、林齢30年(直径21cm)には1500本/haにまで落としている(※)。ここまでに5回、合計にして3000本/haの間伐である(これでも平均年輪幅は3mm)。

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今後、間伐の進んだ山からは梁桁に使える材がどんどん出て来るだろうが、そうでない多くの地域では難しいだろう。さりとてこれから強度間伐しても生き枝が少なすぎて太れない場合が多く、風雪害にも弱い。間伐は質だけでなくタイミングも重要(小径木の段階で線香林化する直前に強度間伐)なのである。

そして、もし中大径材が少数本出たとしても、製品にする体系を持っているかどうか? これも問題なのだ(大手製材所などのオートメーション化されたツインソーでは、400mmを超える大径木が投入できない所がある。板メーカーや集成材メーカー等の大規模工場でも同じで小径木に特化した工場が多い)。

そういう意味では、これまで伐り捨て間伐を躊躇したあげく線香林にしてしまった山持ちは不幸だし、四国の地で久万林業のスギ材に出会えた私は幸運だった。

(※鋸谷式間伐の密度管理図では同時期に1200本/haまで落とす→こちら

ベイマツの真実/その3


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