加古川のイベントを終えて小野へ移動。島根の里山インストールでお世話になっている小林君のもうひとつの拠点へ。ここで若い鍛治職人たちが働いている。
小林君の実家の表具店の隣に工房がある。「MUJYUN」は海外展開のブランド名。2階にはデザインスタジオ「シーラカンス食堂」オフィスがある。
内部は道具・機械・工具が満載の本気の工房である。先日、高松まで鍛治工具を取りに来た小春ちゃんがハサミづくりに取り組み中だった。いや凄いな・・・
僕がサイズ感を伝えておいた囲炉裏用の火箸を製作中(!)。手に持たせてもらった。いい感じである。囲炉裏グッズは現代ほとんど生産されていない。モダンで使いやすい新製品をここから発信できないか・・・小林君といろいろ模索中である。
こちらは富士山ナイフの鞘に刻印を入れる工程。
富士山ナイフはむかし子供たち愛用された肥後守(ひごのかみ)をベースに、富士山と美保の松原を浮世絵的にデザインされたもの。世界的なヒット商品となっている。
僕も青紙入りのやつを購入。おしりの波の部分が栓抜きになっていて実用性も高い。
工房の機械類は廃業した鍛冶屋などから集められたものが多い。今日は僕の他にも見学者多数。
コークスで焼きを入れる工程。
2階のスタジオへ。はさみのコレクション。鋏(はさみ)・ナイフ・包丁・剃刀(カミソリ)など小野の家庭刃物は230余年の歴史を有する伝統産業。どこぞも同じだが、後継者不足に悩んでいる。
鍛治仕事には高度な職人技が必要だが、商品単価が安いため数をこなさないと経営維持できない。老齢職人たちは時間・経済的にも余裕がなく後継者を育てられない。さらに「問屋を通して商品を卸す」という流通モデルが商品開発のじゃましている。
そのため小林君らはブランドと流通方法をリデザインし、人材育成については「親方・弟子の1対1構造」でなく複数の職人から多くの知識を吸収し実践できる環境を作ったのである。自習形式で作業を進め、わからないことがあれば近所の職人に質問にいくという、これまでにない修行スタイルだ。
世界的にみても優れた職人技術と文化があるのに、弱体化した産業構造がそれを消滅させようとしている。地方の価値ある地域資源と産業を未来に残したいという「シーラカンス食堂」の思いは、鍛治金物だけでなく様々な商品を送り出している。写真は石州和紙から作られた神楽面。
さらにそれらモノづくりの源泉は日本の自然にある。3年ほど前、小林君は僕に突然メッセージをくれたのだが、その中に
「伝統産業の後継者問題は需要と供給みたいな話ではなく、日本人の暮らしの変化に課題があると気付きました。それで里山暮らしをする鍛冶屋を目指して島根県に山を購入しました」「林業や農業の深刻な問題も学びまして、全て山暮らしから日本人が離れたのが原因といっても過言ではないと今は思っています」
と綴られていた。
そうして当時交渉中だった「探検したら後ろにはずっと続く棚田が隠れていました」という茅葺民家も、彼はついに手に入れてしまったのである。
見学者と皆で、小野の町なかにあるゲキ渋食堂で昼食をとり、工房の前で記念写真をとって別れた。マンホールのデザインが印象的であった。小野はそろばんの生産の中心地でもある。
午後からもう一つの約束、小野に古民家を購入したKご夫妻に会いに行く。