泊まらせていただいたのは町内にある古いお屋敷で、中庭が2カ所あり、朝食の後その庭の草刈りや剪定を皆でおこなった。東京から年に数回このご実家の建物に戻り、宿泊しながら家の保全・庭の手入れを行っているということだった。
内装の多くは昭和の新建材改装がされているけれど、一部残された部屋は造作がすばらしく、当時の町の隆盛を物語るに十分だった。しかし、さすがに庭はこの季節にはボウボウになる。剪定枝がどっさり出た。
町にはこの手の古民家がまだ息づいており、保全するにはぎりぎりのところに来ているように思われる。行政側は積極的でないが、いま保全側に回らなければ、やがてミンチ粉砕され駐車場・新建材住宅になるのは目に見えている。そうなればもはや、町の伝統や記憶は消えてしまうだろう。
庭仕事で一汗かいた後、再生に意のある建築家が手がけたという物件を見に行った。この建物は一部が建築家の住まいに、一部がカフェになっている。
その建築家が手がけたという、1棟貸しの宿泊施設にリノベされた古民家。
庭がそのまま生かされて、光と風を取り入れたいい空間になっている。
続いて一昨日の建物を再訪。大工であるTさんに見聞してもらいプロの意見を出してもらった。屋根の雨漏りがひどい。急いだ補修が必要。
庭の風通しだけやってみることに。一昨日はヤブ蚊の多さにひるんでしまったが、風が通ったとたん蚊は激減。
おまけに小さな井戸の底には透明な水が湛えられていることを発見する。雨の少ない讃岐平野にあって、この町には有名な酒蔵があるほど、昔から地下水の利用がみられるという。これは再生側には大きなポイントだ。
風が通るとさっそくチョウたちがやってくる。ブナ科の常緑樹に依存するムラサキシジミ。この一帯はかつて武家屋敷の跡であり樹木が残されている。これらの木々がチョウを守っている。
隣も空き家で大木が多い。アオスジアゲハも見かけたが、このクスノキで発生しているのかもしれない。いま、都市部では落ち葉の厄介さや枯れ枝の危険からどんどん大木を伐る傾向にある。これだけの大木には100年近い歴史がある。伐るのはチェーンソーを使えば一瞬だが、また戻すことは(少なくとも私たちの世代では)不可能に近い。
樹木(とくに大樹)は、保水や空気浄化、地温の安定、生物多様性などに多大に貢献していることを忘れてはならない。
昼は近くのラーメンの老舗へ。ずっとこの町の変遷を見続けてきたお店。僕のアンテナには引っかからなかった店名なんだけど、あっさりスープに極細麺という、時代を逆行するようなスタイルがいい。
午後から気温はさらに上昇し、畑での作業はキツそうだった。いったん仕切り直しで古民家に戻り、スイカやお茶をしながらミーティング。できるだけ木を残していく。記憶をつないだ古民家のリノベ ーション。そこに自然農の田畑から届けられた食材で、カフェレスランが誕生する・・・というようなプロジェクトの骨格が、誰の目にも立ち現れてくる。
いずれにしても「大地の再生」の手法は、森林・農地・屋敷の再生すべてのスタート地点において必須である。それを使えば町なかの大樹も、枝枯れさせずコンパクトに活かすことガ可能なのである。
僕は明日、京都の綾部で子供たちとのワークショップに出発しなければならないので、その準備のため先に帰宅した。