滝尻崩壊地の林相を探る/その2


それにしても荒涼とした林内である。わずかに乾燥に強いシダや、サカキなどがぽつんとあるだけで、ヒノキ以外の植物はほとんどない。枯死木が少なく、根倒れ木は見当たらない。転がっているのは過去に伐り捨て間伐したヒノキである。

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土壌はカラカラに乾いて硬い。表土は流れ石が浮いている。

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4mの釣り竿を回して円内本数を調べてみる。

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▼崩壊上部キワのヒノキ林

・半径4m円内(中心木20cm)=12本(切り株14本=計26本)

・半径4m円内(中心木19cm)=15本(切り株10本=計25本)

・半径4m円内(中心木22cm)=13本(切り株12本=計25本)

3カ所の平均は13.3本だった。明瞭な切り株を入れると半径4m円内に25本くらいある。だから25×200=5000本/ha以上の植林本数であることが解る(間伐前に誤伐や枯死が何本か出るのでやはり6000本植えくらいだろう)。それを1回だけ間伐し13.3×200=2660本/haまで落として現在に至る、と推察する。

本州の平均的な植栽密度は3000本/haといわれているので、ここの林地は一度も間伐していない本州の平均密度に近い。それでも枯死せず、風雪害にも遭わず、線香林のまま立ち続けているのだ。

平均胸高直径は約19cm(10本計測の平均)なので胸高断面積合計は0.095×0.095×π×2660=75.4㎡/ha

これは限界成立本数80㎡に近い。

根倒れした木が見当たらないので、やや奥に移動し、間伐で倒された木を繋いで巻き尺で測ってみた。倒された木の樹高16.3m+切り捨て高≒18m 胸高直径17.5cm で、形状比は18÷0.175=103と100を越えていた。形状比は風雪害の危険度と山の健全さの指標だが、70以下が健全。85以上は巻き枯らしが必要な荒廃林である。

鋸谷式間伐の密度管理では胸高断面積合計50㎡/haで管理するので直径が19cm平均の林では4m円内本数は9本以下でなければならないので、ここの現況では4本以上多い。強度間伐するときは半径4m円内に残す本数は5.5本なので7~8本(つまり本数で半分以上)伐らなければならないということになる。

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(図版は鋸谷茂・大内正伸『図解 これならできる山づくり』41ページ/大内画)

この林分のヒノキ樹齢は50年生だが、間伐が行なわれなかった密度管理の失敗よって胸高直径の平均は20cmを満たない。年輪は緻密だが、この緻密さのまま今後健全に育つことは難しいだろう。すでに樹高を20m近くまで稼いでしまっており、そのわりに生き枝があまりにも少なく、林床は表土を流出し、また表土を作るための広葉樹の落ち葉や草本の蓄積が望めないからである。

もし順調に強度間伐が行なわれていれば、平均年輪幅4mmで成長するとして胸高直径は50×0.8=40cmになっていたはずだ。そのような密度管理だと当然ながら中層に広葉樹が発達する森となり、環境的にもよい山になっていただろう。

40cmの直径があれば元玉で横架材を(梁断面105×300)を、2番玉で柱や板を採ることができる。

一般的な木造軸組工法で使われる木材の材積は、桁・梁などの横架材が約50パーセントを占める。現在はこの横架材がベイマツや欧州産ラミナ集成材など輸入材に独占されているわけで、三重県の林業研究所などはこれを県内産のスギ・ヒノキにするべく「三重県産スギ・ヒノキ 横架材スパン表」などというものを平成23年に作っているが、なにしろ太いスギ・ヒノキ が育っていないのだからどうしようもない。かといって今さら強度間伐しても時すでに遅し。

このようなスギ・ヒノキ林はここだけの特殊な例ではなく、紀伊半島中に驚くほどたくさんある。

この大崩壊はこの荒廃林が影響している? かは別として、林業的には間伐政策の完全なる失敗である。

手前にある間伐されたスギ林の直径は21cm

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10年ごとの年輪に印をつけてみた。20年ちょっとで1回間伐を行なっているのが解る(やや年輪が太く回復している)。

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近年は最も成長が悪く、1cmの中に15本の年輪が刻まれている。

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