お線香と洗剤の香り


初めての店に外食に行って、期待が外れたときの落胆は「やっぱりダメだったか・・・」とつぶやく程度で済むが、一番怖いのは美味しいと何度も通う店で、隣の人の化粧や衣服の洗剤(柔軟剤?)の臭いに当たってしまうことである。セルフうどんのような店なら即座に席を変えて離れてしまえばいいが、ちょっとした名店ではそうはいかない。食べている間にそんな臭い持ちの人が隣に座ってくると諦めるしかない。

臭いに関しては前からそうだけど、漆喰と無垢の木の家に住み始めるようになって、ますます鋭敏になってしまったようだ。たとえば仏壇に毎日あげるお線香、以前人から京都の線香をいただいたのだけど、その松榮堂「のきば」を使い始めたら、いままでの線香が使えなくなってしまった。

お線香は朝の匂いのスターターとして重要なものである。「のきば」の説明書きには「吟味・厳選された天然香料を配合して・・・」と書かれている。ということは、人工香料を使っている線香も多いのだろう。ハーブの名を重ねたモダン線香もいちど使ってみたが、人工的なものなのか匂いが強過ぎて、すぐにお蔵入りとなった。

たぶん私の中でベースになっているのは、水と植物の匂いだ。少年の頃、釣りや海水浴に行ったときの、あるいは田んぼを歩いたときに嗅いだ水辺の様々な匂い。そして昆虫採集で山々を歩いていた時の、草花や木々にまつわる個性的な香りである。

考えてみれば、現代人はそのような世界からことごとく離れた生活している。新建材の家の中で24時間換気をしながらエアコンで暮らし、テレビやパソコン・スマートフォンの中で、バーチャルな世界にどっぷり浸っている。その世界に最も欠けている情報は「匂い」である。

しかし、ものの香りはまた人間にとって極めて重要なセンサーの役割をしている。人は食と吸気で人体に物質を取り込んでいるが、まず臭気によって鮮度を確かめることができる。そして、食の間違いは便や尿で排出されるという逃げ道があるが、吸気は肺から直接リンパや血液に入っていき、大半は体内に留まりやすい。

旅先で柔軟剤の臭いを衣服につけて帰ってきてしまうことがある。シーツなどに強烈な洗剤臭の残る宿がたまにあるのだ。驚くべきことだが、接触するだけでなく空間を通しても臭いが移るようなのだ。今の洗剤・柔軟剤にはマイクロカプセル(※)が使われているものがあり、常にマイクロカプセルに接していると鼻粘膜の臭い分子リセブター数が減少し、(本人は)しだいに臭いをあまり感じなくなるのという。

※マイクロカプセルの大きさの単位はマイクロ(100万分の1m)、臭い分子の大きさの単位はナノ(10億分の1m)

調べてみると人工的な香料が原因で体調不良を引き起こす「香害」という言葉まであり、臭いが原因で、結婚式や葬式にも出られない人もいるらしい。カフェの店主のツイートに「イスもカップもメニューにもすごい臭いが残って困っている」というのを見つけた。いやはやすごいことになっている。

しかし、これら化学物質が洗濯を通して自然の生態系に流れ出ているとしたら・・・。先日の河名秀郎さんの本にも書かれていたが、まず重要なのは化学物質という異物を身体に入れないことだと思う。

ちなみに我が家は風呂も台所も石鹸だけ、洗剤は粉石鹸(ミヨシ石鹸の「そよかぜ」はホームセンターで購入できる)。歯磨き粉も不使用。そのせいか浄化槽の出口はほぼ透明で無臭な水になっている。


「お線香と洗剤の香り」への2件のフィードバック

  1. この頃の 柔軟剤( ̄◇ ̄;)凄すぎて 辛いです
    ポンとしたら 香よみがえる…なんて…

    お線香も いろいろ試し お煎茶の先生に勧められ 松榮堂に 行き着きました〜♪

    木や草の香りを感じられなくなったら……恐ろしい……

  2. 高松三越で大京都展というのを毎年やるんですが、
    そこで松榮堂さんが出店していたときがあって
    のきば愛用していますって言ったら、

    「では、今年はその上のものどうですか_」

    って勧められたw。
    グレードがず〜っと何段階もあるのね、香りの世界も凄いな・・と。

    ブリア=サヴァランが『美味礼讃』で書いているけど、
    味覚は嗅覚がセットになっていて、美味を味わうには匂いが非常に重要なんだよね。

    囲炉裏をやっていると、燃やす木の枝の種類によって
    匂いが違うのを感じる。ほのかな煙の匂い
    これ、お香の原型みたいなものだけど、いいものですよ。

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