青根温泉「不忘閣」


敬愛する温泉教授、松田忠徳氏の本『古湯を歩く』で知った青根温泉。そこに、仙台に通うなら一度は行ってみたいと思っていた宿がある。和室の温泉宿は一人泊りは敬遠されがちだが「湯本不忘閣」はそれほど割高でもなく部屋がとれた。ここは「日本秘湯を守る会」の会員宿でもある。

鳴子温泉のように最寄り駅はないし、温泉まで直通のバスもないのだが、仙台駅から高速バスで遠刈田温泉の終点まで行くと、そこに宿の車が迎えに来てくれる。部屋から見る景色は雪に覆われ、屋根からつららが降りていた。

ここは仙台藩伊達氏の御殿湯が置かれた場所のひとつ。源泉掛け流しはもちろんだが貸切の湯船が4つある。帳場に置いてある各湯の貸切札を手に入りに行くという自由なもの。まずはこの宿の代表的な「大湯」へ。伊達政宗も入ったといわれる石組みの湯船をそのままに、内陣は青森ヒバと土壁で作られた再生古建築だ。脱衣所も蛇口のある洗い場もない。

しかし、これを一人で貸切にしてしまうなんて、なんという贅沢・・・。次に新湯。小さな湯船だが、こちらも石組み。お湯は無色透明だが華やかな香りがあってやや熱めである。昔風に白熱灯で暗めにライティングされていて、それがとても癒されて、落ち着く。

それにしても昔の建物なので廊下の行き帰りは寒い! でも途中に石油ストーブのともる休憩所があって、そこで無料で地酒が飲めたりする。

柚味噌をあしらったミニ田楽まで用意されてあったりして素敵だ。

そして宿紹介の掲載誌などが置いてあるのだが中にこんな本まで・・・。ここには「大湯」壁の仕上げが書かれており、土壁は上塗りしてから炙って仕上げているそうだ。

そして、いちばん興味があった「蔵湯」の札がやっと帰ってきた。すかざず入りに行く。なんと蔵一棟の中にヒノキの大湯船があるのだ。ここを通っていく(さぶい!)

これがその蔵のドアである。明治初期の蔵を改装したものだそう。

中を開けるとやはり脱衣所も蛇口のある洗い場もない。が、広々とした空間の奥に大きな檜風呂が。そして滔々と掛け流しの熱湯・・・。

上質な建築空間にある本物の湯につかるという、なんたる贅沢・・・。それだけではなかった。この宿、食事も素晴らしいのだ。京都の懐石を思わせるような美しさと完成度だった。

しかし、寒かった! 夕食は部屋出しではなく、和室にテーブルと椅子でいただくのだが、温風ヒーターがあるとはいえ、足元が寒い。パッチに厚い靴下が必須だった。

食後は倒れこむように熟睡し、びっしょりと寝汗をかいて深夜に起きた。着替えてまた大湯に入りに行った。そして明け方、最後の半野外の小さな石風呂「亥之輔の湯」に寒いけど意を決して入りに行く(笑)。

意外や寒さをそれほど感じず、いい空間とお湯を楽しめた。ここは石積みの壁が見え坪庭的空間なのだが、残念ながら植栽がない。中庭にはいい感じの池があるのだが、全体に植栽までは気が行き届いていないようだった。どれもがすばらしい湯船群だけにそれが心に残った。

(続く)。


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