みちのく温泉麺食い紀行5.(山形、蔵王温泉)


林業取材を終えて宮城へ向かう。山形市内でコインランドリーで洗濯。市内には目を見張るばかりの古い建物が残っている。東北も盛岡~仙台筋になると新建材住宅だらけになるが、奥羽の中道はまだまだ古い建物が健在である。現役の茅葺き民家も目にする。金山町のように、地元材を使った在来工法の建物に助成を出し、景観保存をしている町もあってこれはこれですばらしいと思う(写真下)。

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大学時代、スキーで蔵王に行った。茨城の水戸出身の僕は、そのころ温泉の経験などまったく無い。蔵王の宿の湯は湯の花が湯船にはりつき、湯は白濁し、石けんは泡立たず、大学の下宿に戻ると乾いたタオルはぼろぼろに穴が開いた。その温泉体験は強烈だった。目指すは蔵王。もう一度あの温に入ってみたい。

温泉街に登る前に、道に湧水が湧き出しているところがあった。そこでペットボトルに水を補給する。温泉街で、工事の警備バイトをやっていた若い兄ちゃんに共同浴場と駐車場の場所を聞く。これまた実に懇切丁寧に教えてくれる。

彼の情報によれば、蔵王温泉の共同浴場は3カ所。うち、近所に駐車場(有料)があるのは「川原湯」というところだった。他の二つのほうが建物はこぎれいで、入りやすそうであった。川原湯は建物も周囲の雰囲気もなんとなくショボイのである。

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が、中はなんともすばらしかった。小さな木の湯船。その底と側面はすのこになっていて、直接下から湯が湧き出しているのである。白濁していないのは、湯が酸化するまえの新鮮なものだからだ。

溢れた湯は小さな溝を伝って、建物の穴(ディズニー映画のネズミ穴を連想させる)から外に流れ出していく。外観とは裏腹に、中は丸太木組みの軸組木造建築であり、はめ込みの磨りガラスと天井の吹き抜けから光りが差し込んでいる。先客に子供2人を連れた若いお父さんがいて、会話を交わしている。

強烈な「癒し」を感じた。もちろん湯もすばらしいのだが、古さびた浴場なのに、あふれ返るような清潔感があるのだ。湯の鮮烈さと建物が生み出す光の演出。そして人。共同浴場入り口には賽銭箱のような空き缶があって、手前の番台ボックスが無人のときはここに200円を入れるらしいが、湯上がりで入り口の長椅子に座っていたおばあちゃん二人に

「いないときゃお金はいいんだよ」と言われてしまい、僕らは駐車料金の250円だけで、この最上の湯に入ってしまったのだ。群馬で最も敬愛する湯のひとつ、草津の「地蔵の湯」にそっくりであるが、硫黄臭はこちらのほうが上かもしれない。

感動で上気しながら、車を進ませ「お釜」を見にいった。リフトの終点にコマクサが咲いており、咲き終わったハクサンチドリやコケモモが小さな実をつけている。その高山植物の丘を進んでいくと、ゆっくりと青い水面がみえ始める。蔵王連山の宝石とも言うべき火口湖「お釜」は、リフト代をはたいても見に行く価値は十分にある。その美しさに誰しも息を呑むことだろう。

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