大地の再生講座@福岡県朝倉市2/昔の土木を重機の力で


参加者は地元の方々を中心に、九州各地から。いつもの自己紹介が始まる。陶芸家や染色家などもいらして多才な顔ぶれ。すでに矢野さんの講座を受けて自らの敷地で実践されている方もいる。大地の再生は各地でその沸騰ぶりを見せているが、九州もなかなかである。

梨畑の敷地には小さな沢が流れている。対岸は山の斜面ですなわち沢の位置が地形の変化点だ。その沢は道路によって脈を塞がれ、コンクリート製の暗渠で道の向こうU字溝へと流れているのだが、まずその流出口が泥で塞がれている。そこを矢野さんが重機で掘る。

ようやく暗渠の開口部が見え始める。人がかがんで通れるほどの大きさだったらしいが、当時の土砂がまだ詰まっているのか水位は下がらない。

ともあれ暗渠開口部の手前に深い穴を掘っておき、上流側に長めの杭を数本打って土留めとする。

一方で溝掘り。前回施業した溝をもういちど深く掘り直す。

こちらは草刈り組。梨畑下を風の草刈りの要領で。

矢野さんは上流に向かって重機で沢を掘り進める。

ここでお昼。黒川本流に降りて、上流のお店を目指す。まだ残る生々しい爪痕。ここにも流木の集積所がある。

崩壊斜面の倒木は散乱したままである。

そんな景色の前に建つ「蛍雪の里 黒川山荘 十割蕎麦処 」。古民家をリノベーションした素敵なお店だが、この一年間どんな苦労があったことだろうか。

無農薬野菜たっぷりのカレーとラッシーをいただいた。大変美味しかったです。いつかここで十割蕎麦も食べてみたい。

さて午後。矢野さんは山際の沢をさらに掘り続ける。

そして梨園の溝(水脈)はこの沢に落ちるように設定される。その水勾配をとるために、溝は深めになっていく。

山裾から沢の流れが離れた場所は、地形の変化点のキワにやはり溝を掘る。だからここは中洲のような地形ができる。

沢の上部に支障木があるときはチェーンソーでカット。これは風を通す意味もあるわけだが・・・

その切り落とした枝葉を、矢野さんは重機のバケットで器用に押しつぶし、

沢から掘り上げた土砂に混ぜ込んで、丘を作っていく。沢は深く掘ればそれだけ空気が抜けやすくなり、梨畑の水はけを改善するが、掘り上げた土砂がけっこうな量出る。それは、沢の左岸(梨畑側)に有機物を混ぜ込みながら積んで小さな堤を作る。そこは重機の通り道にもなっていく。

水脈整備のチームは溝掘りを終えて伐採竹をさばいて水脈の有機素材を作りにかかる。

ただし、今の時期の伐採竹は水分を含んで虫の害にも弱いので、細枝葉だけ現地素材として用いる。水脈の重要なパーツである竹幹は、寒の時期に伐採してストックしたもの運んできている。なかなかに繊細なのである。

炭も大量に用いる。前日、竹を焼いて熾炭を作ったそうだ。その作業に興味を持って今日参加された地元の方もいた。溝に水が溜まっている場合は、炭が浮いて流れてしまうので、先に竹の枝葉を敷いてからまく。

梨畑側の大きな点穴に木杭と竹で土留めを作る。まず縦3本の杭を打ち、そこに2本の斜め横杭を打って番線で縦杭に固定する。そこに割竹をランダムに挿していく。

さらに竹の枝葉を、割竹と土の間に刺して土の崩れを止める。炭があれば割竹と土の間にまいておく。これは最も有機的で、水と空気の流れを阻害しない土留め方法といえるだろう。

沢と梨畑の間に堤ができていく。現代土木では盛土に表土や枝葉などの有機物を混ぜ込むことはタブーなのだが、大地の再生では積極的に入れていく。有機物があることで、空気や水が安定して地面が呼吸でき、重機が乗っても法面が崩れず安定する。

現代土木では特殊な布を土に挟み込む「ジオテキスタイル工法」があるが、原理的にはそれに近い。最後は法面の天端をクワで丸く均していく。堤をカマボコ断面にすることで空気と水はさらに通りやすくなる。

沢はただ直線的に深掘りするのではなく、点穴を掘りながら段差をつけ曲がりにも変化をつける。水が停滞しないように、かといって早く流れすぎないように。石や抜根、丸太なども土留めのパーツとして配置していく。

沢に重機が入り込んで、一見破壊的な動きで沢を壊しているかのように見えて、実は緻密に計算された水と空気の道がつけられている。それは重機が沢から離れて、やがて泥水が澄み始めるとさらによく解る。

川の蛇行は空気と水の循環のために極めて重要なのだが、人間は直線にして管理したがる。またコンクリートだけで固めてしまうので土木の中に植物の機能がない。「土木」という字の通り、土と石と植物があることが大事なのだ。地中に空気があるから水がゆっくり出る。雨の少ない真夏でも山から水が出続けるのはそのためだ。

土と石と木の組み合わせが大地の中に取り込まれていくと、自然に地形は安定し、土圧・水圧・空気圧がほどよく抜けてくれる。コンクリートを使わなくても、ここにあるものだけでできる。もの凄い水量がやってきても、けっこう耐えるものだ・・・と矢野さんは言う。

ならば黒川の本流の再生をこの方式でやったらどうだろうか? それは重機のサイズを大きくして、同じ要領で行えばいいだけのことなのだ(そして様子を見ながら定期的に手入れをしていく)。湿潤で豊富な植物に恵まれた日本で、どうしてここまで植物の機能を無視した土木が進んでしまったのだろうか?

その例は林業にも見られる。山を「木の畑」とみなして挿し木苗を密植し、手入れを放棄して下層植生が消失するほどに山を荒れさせてしまう。強度間伐して林内に光と風を通してやるだけで、日本の山は再生する能力を持っているのに・・・。

帰りに一山越えて疣目川を下ってみたが、同じく手入れ放棄の線香林と崩壊斜面が連続していた。

これをコンクリートで固めてしまうのか? それとも重機という近代装備で「昔の土木」に戻るのか? それは日本の未来を決定するくらい重要なことである。

講座を終えて、感想会で輪になっているときに、梨畑の沢から水音が静かに聞こえてきた。ほどよい流れになっていると、石や落ち込みで作られる水音は同じ波長になり、1日聴いていても疲れないのだそうだ。

それはなんとも懐かしい音で、梨畑の再生と共に堤に緑が復活して、蛍が飛ぶ姿が私にははっきりと見えた。


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