大地の再生講座@福岡県朝倉市1/豪雨の爪痕と再生する梨の木


今回の「大地の再生講座」は九州北部豪雨の被災地、福岡県朝倉市である。昨年(2017年/平成29年)7月5日から6日にかけて、福岡県と大分県を中心とする九州北部はとてつもない集中豪雨に見舞われた。その結果、土砂崩れ、河川の氾濫が起きた。ここは古くからの林業地でとくにスギの人工林が多い。土砂崩れで出た流木がまた被害を拡大した。講座の集合場所近くには、その流木の集積所があった。

集合場所に早く着いたので、現地まで行ってみることにした。ダム湖を過ぎるとたちまち崩壊斜面が現れる。

その多くがスギの人工林である。次々と現れる崩壊斜面はかなり悲惨なものだ。2011紀伊半島豪雨の崩壊地を思い出した。

間伐が遅れた線香林ばかりだが、太さも高さもけっこうある。

九州の人工林のスギは「挿し木苗」のため直根がない。その根は地盤への支持力が弱い上に密集しすぎて木一本に対する根張り面積は大変少ない。そして、拡大造林時からすでに50年経っており木の自重は重い。つまり大雨が来ればいつ崩れてもおかしくない危険な状態になっている。そこにとてつもない大雨が来た。

さらに矢野さんが指摘するのは下流のダムの影響である。下流の深い谷がダム湖で塞がれたとき、空気は抜けにくくなり水が停滞する。そこに大雨が降れば地中の飽和水は斜面を登っていきスギの根周りを液状化させる。そして表層崩壊を加速させる。

さらに滑り落ちて濁流に流されたスギの丸太は橋梁を塞いで一時的なダムを作る。地中の飽和水はさらに斜面を登っていく。こうして崩壊の連鎖が起きる。大地の再生の視点から見れば、空気の抜け道を失ったために、大地が自ら崩壊によって空気抜きをしている・・・と言える。

河原に刺さっているコンクリート塊が、当時の濁流の凄さを物語っている。

あれから1年経つが山の崩壊斜面や倒木はそのままだ。生活道路と電線を直すだけで手いっぱいなのだろう。

講座場所の梨園に着く。

周囲は傾いたスギの大木がたくさんある。

その奥に回ってみると土砂に埋もれた谷があり軽トラが横倒しのまま埋もれているのだった。

梨園は借地として譲り受けて20年間管理してきた。昨年の豪雨で土砂に埋もれていたものを、災害ボランティアの手で復旧した。酷いところは2mも堆積していたそうだ。

矢野さんたちは2回目の屋久島講座の帰りにここに立ち寄り、突貫の作業で水脈をいくつか通した。梅雨時期の高温になるまでにいくらかでも手を入れておきたいと思ったからだ。おかげで枯れかけていた木々にも息づきが戻った。すでに小さな実がついている木がたくさんあった。

小さな重機と有機的な素材で復旧できる。そして植物の復活がまた再生に力を貸してくれる。

一方で町の災害復旧はどうしても「安心安全」のほうに行ってしまい、コンクリートで固める方向に向かう。災害に疲弊した人々は考える時間がない。与えられたものを呑むか呑まないか・・・という選択に迫られる。

ここ朝倉一帯はダムが3つあり、福岡市内への水がめ(水道水源)になっている。現代土木ではなく、石と土と植物を活かした昔の土木で水源を守るほうがいい。

地区全体のひとつの手がかりがこの梨畑にある。人が人工地形を作ったとき、どういうことをやらなければいけないのか? 災害あとの取り組みの参考になる。朝倉のこれからの問題を投げかける場所になる。

矢野さんたちはそんな気持ちでこの現場に取り組んでいた。

(続く)


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