大地の再生講座@福島県三春福聚寺(1)/池と大樹の機能を取り戻す


滝桜で有名な福島県三春は城下町で、ここ「福聚寺(ふくじゅうじ)」は戦国時代の三春城主田村家の菩提寺でもある。門前に立つと緩やかながらすり鉢状の地形の真ん中に境内があることが解り、その集まった水が、町の中心部へ真っ直ぐ向かう坂道を流れていく様も想像できる。矢野さんらはこの寺に3年前から関わっている。

これまでの施業としては、建物周りのU字溝に穴を開け、墓地の地形の変化点に通気・透水溝を掘り点穴を開き、水が道を走らないように高さを変えたり抵抗板を取り付けたりしている。その総延長は相当なものになっている。

国土地理院地形図より、中央十印が福聚寺本堂

3年前の状況は相当に悲惨だったという。周囲の木々は枯れ始め、枝垂れ桜の大樹もかなり弱っていたらしい。雨のたびに泥水が流れ出て墓石や縁石を汚していた。そもそも重い石を大量に使う現代の墓地は、大地の再生の観点からすればそれだけで問題をかかえている。原因は明らかだった。

本堂が茅葺き屋根だった頃のモノクロ写真を見せてもらったが、桜だけでなくマツやスギなどの大樹や、そして現在駐車場になっている場所には池があったようだ。その池は水の排水・蒸発・浸透場所として重要な役割を持っていただろうし、枯れてしまって今はないという大樹の根は、地中の通気・透水に大きな機能を発揮していたはずである。

現在はそれらが消失した上に、石やコンクリートやアスファルトで覆われて、大地を圧迫しながら水の浸透を妨げ、大雨時には浸透しきれない水が集まって側溝や道の上を流れて行く。それらが集中するのが山門前の広場であり、そこから町へ向かい坂道が一直線に続いている。

まず矢野さんはこの扇の要(かなめ)のような門前広場と道の接点にコルゲート管を埋め、さらにレベルをかさ上げして水の勢いに抵抗をつけることを提案した。庫裏の改修工事で出たという礎石が多数あるので、それらを石畳のように象徴的に使い、勾配をとって既存のアスファルトに擦り付けるという。

というのも、山門下の両脇には、左手に新設の浄化槽がすでに埋められており、右手には電気系統のボックスが作られている。とくに浄化槽はマンホール周りをコンクリートで固めることが義務付けられており、その周囲を石積みと植栽でまとめたい。矢野さんは道のかさ上げにその石積みとの連続性を狙っているようだった。

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こうなると水脈(通気・透水)機能だけでなく、空間的なデザインセンスも要求されるわけだが、今回、石積みと植栽には地元の庭師集団「(株)創苑」スタッフが参加。大地の再生講座には何度か出たことがあるという矢野さんとは旧知の仲である。

住職の玄侑宗久(げんゆう・そうきゅう)氏は芥川賞作家でもあり、新聞連載に矢野さんの活動を紹介したこともあるよき理解者である。しかし施主もスタッフも、図面なしで大胆な施工を提案する矢野さんに着いて行くのはなかなか大変そうだ。

浄化槽周りは外周を石積みで囲い、後からコンクリートを打つ。外周のツラをどの位置にするか、天端の高さをどの程度とるか、これも口頭で指示が行われる。

指示を終えて、敷地の施工場所を一通り見るという矢野さんに付いていった。まだ枝枯れしている木も見える。

石垣下の通気・透水溝。

U字溝はところどころブレーカーで穴を空けて、空気と水が浸透しやすくしている。

こうすることでアスファルトの割れ目から草が芽生えてくる。その根がまた地中の空気通しを良くし、泥水の流出を防ぐ。

泥水が流れていたという歩道も、草でびっしりと覆われている。

水が走らないように伐採枝でステップ(抵抗)を作り、U字溝に誘導する。

城主田村家の墓は最上部にあるが、ここがまた最上部のすり鉢地形の中心部になっている。

道が川となって泥水が移動していたコースを、高低差を変えることで分散させる。

風の草刈りが徹底できておらず、シルバーの人たちはどうしても根際から低く刈ってしまうそうだ。もっと高く刈り残したほうがいい。

マツ枯れも回復のきざし。矢野さんに言わせるとマツ枯れはマツクイムシが主原因ではない。通水・通風の詰まりによって有機ガスが発生し、根が痛み、マツが衰弱する。それでヤニが出なくなり、カミキリムシやセンチュウの侵入を許す。

過去の通気・透水溝の施業跡。炭がたっぷり使われ、竹の枝が通風を確保している。

コルゲート管を併用した点穴の施業跡。メンテナンスを繰り返すことで長くその機能を維持できる。

こうして地表・地下部の水脈の調整は大方進んだ。あとは地上部の風の草刈りの徹底と、これらの水が集中する門前広場と公道の接点をどう仕上げるか? である。

(続く)


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