第2回・屋久島講座2-2/玉手箱は輝かない


ヤクスギは1000年以上のものをそう呼び、1000年以下のものはコスギと呼ぶ。小杉谷集落跡地までの区間にある唯一のヤクスギだそうだ。

枝枯れがおき、全体の葉量が少ない。樹勢がかなり弱っているように見える。

安房川の上流は小杉谷と名前を変える。その鉄橋の下の河原で昼ご飯となる。

河原といってもこの石のスケールに度肝を抜かれる。私は濃密な自然は大好きで屋久島はすごく興味があったけれど、皆の人気が沸騰しているような場所は行かない主義なので長らく敬遠していた。しかし、あるとき詩人のナナオ・サカキと話す機会があり「君は森林のことをやっているのになぜ屋久島に行かない? かならず行くべきだ。行けばわかる」と言われて初めて行ったのが10年前。

このときはyuiさんを宮之浦岳に登らせてみたいという思いがあった。彼女と出会ったとき、一緒に石鎚山に登った。あそこは西日本最高峰だ。今度は九州地方の最高峰に登ってもらおう、というノリだった。しかし最初に驚かされたのはこの小杉谷だった。これは小島の川ではない! 大学時代、東北の山岳渓流で釣りをしてきた経験のある私をして驚愕させるスケールで、「世界中の自然を見てきたナナオが言うだけのことはある」と納得したものだった。

矢野さんが水溜りを見るたびに足を止めてしまい、ちょっと時間が押してきたのでひたすら歩く。

橋を渡れば集落跡、分校跡の前には説明書きや石碑などが並んでいる。ここはかつてヤクスギ伐採の拠点だった。この谷には「屋久島一の美林」があったという。ところが明治の地租改正で島の森林8割が国有林化され、国は大規模伐採を始める。島民は下げ戻しを求めて争ったが敗訴(のちに「屋久島憲法」により7千haが島民が使える共有林となったが・・・)。

それでも樹齢1,000千年を超すヤクスギだけは伐採が禁止されていた。しかし第2次世界大戦時に禁が解かれ、高度成長期には木材不足や価格高騰が社会問題になり、林野庁は増産を迫られる。1957年ヤクスギ伐採を正式に解禁。チェーンソーも導入される。当時は経済優先で、島民の働き口でもあり、誰も問題にしなかったという。

原生林伐採に反対して「屋久島を守る会」を立ち上げた一人が、前回の一湊集落でお話をいただいた兵頭昌明(ひょうどう・まさはる)さんだ。屋久島が世界遺産に登録されたのは島全体の約2割だが、それは「屋久島を守る会」などが伐採の反対運動を続けたおかげで、かろうじて最後に残された原生林地帯なのである。

矢野さんが感銘を受けたという集落跡地は、江戸時代からスギを背負って里の楠川集落まで歩いた道。一部は石畳のあり風情あるルートなのだが、所々土の箇所がえぐれている。このような場所は小枝やスギっ葉を敷いて覆っていくとよい。そし泥水を流す水脈づくりをしてやる。

そしてついに矢野さんの言う「桃源郷」に到着。

ここは集落が撤去されて約50年。その間、人が草刈りや間伐などの手入れは一切されていない。

もっと広々として廃墟感が漂う場所を想像していた参加者はちょっと拍子抜けし、ここのどこがそんなに良いのかワカラナイという感があり・・・。そんな気配を察したのか矢野さんは、

「玉手箱のような空間は黄金のように輝かないんだよ」

などと、またしても哲学的・詩的な言葉でまとめる(笑)。

さて私の感想だが・・・。

まず空間があるにも関わらず、下草が少なくヤブになっていない。原生林の林床はなぜか皆こういう状態になる。下草がなくても表土が雨で流れないのは分厚い腐葉土層と、蘚苔類が覆っているからだ。また原生林ではなくても、微生物がとてつもなく豊かな土壌になると、不思議なことに草が生えなくなる。私は、ある養豚場の敷地でそのような場所を見たことがある。

ここには水や空気の流れを妨げるようなコンクリート構造物がない。そしてときに凶暴とも言える屋久島の雨風によって、自然の手入れが為される。風と雨が手入れをしてきたのだ。

下にはわずかな草と蘚苔類。そして低潅木。さらに中高木と、それぞれが自然の樹形を表現しながらバランスのとれた配置となっており、まるで庭師が手を入れた庭園のようにも感じられる。

その場の気候風土によって、その場固有の自然で美しい植物形態が宿り空間がつくられる。ほんらい地球はそういう星なのだが、オリジナルなそれが見られる場所は本当に少なくなってしまい、私たちはその美しさに気づくことすらできない。

ここには植物本来の姿と配置の美しさがあり、人が関わったにも関わらず、融合されて原生林と一体化した、違和感のない風景が生まれている・・・。矢野さんはそれに感銘を受けられたのだろう。

私が人工林の間伐をした後に成長して理想形としてきたのもこのカタチである。

帰り道の途中でも水溜りを見つけると矢野さんの指摘が入る。そして、矢野さんはアペルイに帰還して水溜りを見るやいなや、移植ゴテで水脈づくりを始めるのだった。

矢野さんの道具を見せてもらった。先が尖ったこのタイプの移植ゴテが使いやすいそうだ。この尖りがV字谷型に掘りやすいのだ、と。

ホームセンターに普通に売っているそうです(私は屋久島に来る前に平たいタイプを買ってしまった←早く言ってほしかった!)。


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