屋久島・大地の再生講座(3)/敷地に風と水脈を取り戻す


前夜は安房のゲストハウスに泊まった。10年前の屋久島でもお世話になった思い出の宿である。今日から2日間、N先生は宮之浦岳を登りに行く。淀川登山口から入って無人小屋に泊まり、翌日は楠川温泉でピックアップする予定。

天気は良くない。しかも高度を上げるにつれ気温はぐんぐん下がり、淀川登山口に着くとなんと車の温度計は0度を示した。

外に出るとみぞれが降りだしている。さすが屋久島! しかしN先生は諦める気配もなく荷造りを始める。

見送ったあと、私は同じ道を戻って安房のゲストハウス前でパソコンを開いて仕事。定刻に今日の講座場所「アペルイ」に着く。

ハーフビルドの木造家屋で、庭の増築のための木材が横たわっていた。

矢野さんチームのトラックが到着していた。使い込まれた道具類が満載されている。

講座3日目、まずは室内で座学。主催者のひとり、アペルイの運営者でガイド田中氏が口をひらく。この原野を重機で切り拓いてこの敷地に家を建てた。「自然を壊さないように暮らしてきたが、自分の知識に限界を感じた。そんなとき矢野さんに出会った」。この講座を手がかりに自らの敷地を提供して参加者と共に学ぶ、ということのようだ。

2つのブックレットが販売されていたので購入。

『(社)大地の再生講座 結の杜づくり ブックレット』(2017.10.30)
『「大地の再生・環境改善」説明と実例集〜空気と水の流れを変えれば、大地が呼吸し再生する〜(杜の園芸 代表 矢野智徳より学ぶ)』(秀明自然農法ネットワーク 2017.2.5)

座学は「結の杜づくり ブックレット」に掲載されている図版からスタート。

住環境の周囲はどのように変化し、水と空気の流れを詰まらせているか。

そしてアペルイの敷地を眺めてみる。手がかりは、雨と風の動きを丹念に追うこと・・・探偵のように。雨が降っているとき、水と空気の動きがよくわかる。自然地形やそこにある構造物、ものの間をすり抜けていく水と空気を読む。

地上と地下で滞っている所を探す。そこを再生していく。具体的には地上部の風通し改善をするのだが、自然目線で探っていくとけっこう見えてくる。けもの道→けもの目線→場の見え方がまるっきり違う(思わぬ動きの世界が見えてくる)。

人目線から外れ、自然目線に立つことが重要。

自己紹介の時間があり、自然菜園の著作を持つ竹内孝功さんが来ていることが判明。「あの〜自然菜園の竹内さんですよね、著書持ってますよ〜」と声をかけると、竹内さんも「僕もあなたの著書持ってます」とのことだった(笑)。

さて、一昨日の西部林道の山は山斜面がそのまま海にまで落ち込んでいるような地形だった。また昨日の一湊は平地だが、山と海岸は近く、中洲のような土地ということだった。ここアペルイの敷地は河岸段丘になった平地であり、里山である。屋久島は花崗岩による岩山が多く、それゆえ長命なスギが育つのだが、ここは堆積土壌ですばらしい腐葉土層を持っている。

作業として具体的には、敷地全体の草刈りと敷地の周囲ぐるりと構造物まわり、そして道の両脇の溝掘りをする。この溝は途中の空気抜きであり、雨のときは水路になる。そうして敷地の詰まりを解消してやるのだ。

スタッフが草刈機を準備する。ナイロンコードのカッターだけでなく、本体も変わっていてループハンドルである。高刈りはこのほうがやりやすい。

チェーンソー。片手で使える小型のもの。枝切りに使いやすい。

そして小型重機。

特徴的なのはアタッチメントが油圧ブレーカー(鑿岩機)であることだ。矢野さんはこれで土の溝堀りをするのである。

チームのメンバーの腰周り。左に移植ゴテとノコギリガマ、剪定バサミ、右にはノコギリ2種。

まず矢野さんがアタッチメントでひっかくように溝を切っていく。岩に当たったら鑿岩機仕様にするのだが、普段はその機能はほとんど使われない。

切れた溝を三ツグワで調整し、ケンスコ(剣先スコップ)で掘り出していく。溝の幅や深さは30〜40㎝くらいだろうか。メンバーには女性がいる。

さらに後続部隊が・・・

小枝を入れていく。以前、Gomyo倶楽部に見学に来てくれたKさんはまず竹炭を入れ、枝には竹を使うと言っていたが、ここには竹やぶがないので剪定枝を使う。「山の中で木が倒れて水脈になるようなイメージ」。

Kさんが言っていたブルーシートによる枝の包み方と運び方だ。

枝は太くてまっすぐなものから下に入れ、上にいくにしたがって細いものを置き、

最後に青い葉っぱのものを置く。

ところどころに「点穴」と呼ばれる円形の深穴を穿つ。そこには木を縦に置く(植物が根を張る、タコ足のような感じ)それも流れが渦を巻くイメージで置いていく。

点穴の上にも青葉を置く。そして溝の両側から土をかぶせていくのだが、完全には覆わない(それでは水路にならない)。中央には青葉が見えるように被せる。ただし、車が横切るようなところは、板などを被せて土で覆う。

参加者は最初何を手伝っていいのか戸惑ったが、スタッフに教えてもらいながら共に汗をかく。

午前中終了で、矢野さんが敷地のどこに溝を掘るか最終決定しているようだ。基本の開墾整備の考え方は、住宅エリアは建物と植栽に分かれるが、大地に対しては同じような働きを持つ。そこに空気や水が循環すること、呼吸することを目指す。

石も呼吸する。微粒土壌→ホコリが出る。→空気が通ればすぐに団粒化する。→たちどころに石のホコリがなくなる。

斜面の傾斜に沿って、最終的に沢側や海側の低い方へ、吐き出せるように。下流がつまると、上流もつまっていく。畑に畝溝をなぜ掘るか?というと、水と空気の循環を促すためで、敷地の溝掘りも同じ原理である。

点穴を作ることで、空気が抜け、空気が入る。

点穴は環境が変わるポイントや流路の変化点に必ずつける。直線の場合でも等間隔で置いていく。

午後の作業が始まる。私も午後はナタ・ノコを下げ、スコップを持って作業に参加した。基本的に矢野さんが先陣を切って溝のきっかけを作り、その後を追うように作業者が溝を整備していく。もう一つのチームは風通しがよくなるように草刈りや枝伐りをやり、それを資材として溝班に補給していく。

まさか屋久島の中でこんな作業ができるとは夢にも思わなかった。スピード感のある作業に私も巻き込まれ、ナタで枝払いをやったりもした。矢野さんたちはナタは使わずに、枝は手で折るか剪定バサミを使っているようだった。それにしても、本土にはない、見たことのない植物がたくさんある。スリリングな小一時間だった。

限られた時間とエネルギーを使って、今日の自然を前提とした、今日やれる作業をやる。

焦らず慌てずゆっくり急げ。

人は暮らしやすいように平らな地形を作り、さらにコンクリートU字で水脈を固定・遮断してしまった。これで大地の循環が動かなくなり目詰まりする→草木が暴れて→ヤブ化→土の中も風通しが悪い。遮断されてそれが壊せなくても、構造物を挟んで大きな点穴を2つ掘ると水と空気が動く。

3時のお茶休憩となり、その後は矢野さんのレクチャーで午後の第2部が始まった。風の草刈りは草刈機だけでなくノコギリガマでもできる。「風の草刈り」で目通りが良くなり、起伏が見えてくる。どこに溝を掘っていけばいいか分かる。

風の草刈りをしていると、水筋が見えてくる。

溝は移植ゴテで浅く掘るだけでもいい。低いところを繋いでいって、深さ5㎝ほどの点穴を点在させる。

・移植ゴテ(地中の改善)

・ノコギリガマ(空気の改善)

小さなエネルギーを送る、宝物のような道具。いつも基本はこの2つに帰る。この2つが教えてくれるものに立ち返る。

水溜まりを作らないように溝を切る。しかし溜まること自体が悪いことではない。泥水が悪いのであって澄んだ水なら溜まってもいい。泥漉しの機能は有機物で行う。

矢野さんは初めての屋久島で、作業後の感想をこう言った。

「見た目はヤブ化の休耕地だけど、いい土だった。さすが屋久島だな、と思った」

「自然度が高いぶん、屋久島の改善は早い」

終えて今日の感想の発表会となったとき、一人の女性が「矢野さんの話を聞いているとなぜか涙が出てくる」と言った。私も同じだった。


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