伊勢崎の界隈


午後から前橋~伊勢崎へ。次回の個展で古い建物を描こうと思っていて、だいぶ前から外に出たついでに写真を撮って回っている。まだ見ていないものが近辺にもあって、まずは前橋の蚕糸会館に向かう。建物はパッとしなかったが、バラ園はなかなか良かった。2008年の緑化イベントに向けてリニューアル予定だとかで、今シーズンで閉園になってしまうそうだ。植物は時間との連続性でいい感じに育っていく。よく手入れされた太いバラの木やボタン、藤棚もすばらしかったし、温室もよかった。残念である。どんなリニューアルなるのか、ちょっと心配である。

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伊勢崎では県内最古の洋風建築(明治45年上棟)「黒羽根内科医院旧館」と「旧時報鐘楼」「同聚院の武家門」を見にいく。車で通過すると郊外店だらけという印象の伊勢崎だが、一歩中に入るとこんな建物が残されているのだ。その界隈にレトロな「お好み焼き・もんじゃ焼き」ののれんを見つけて、帰り際に入ってみる。

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白髪の混じったおばあさん一人でやっている小さな店である。店内にはこれまた古いお好み焼き用の鉄板が設置されたテーブルが3台。僕らが席に座ってすぐ、2人組のおばさんが入ってきていきなり「あたしゃ、大盛り・おおから・天カスぬき、でね!」なんて元気いい声で注文するのであった。二人は伊勢崎生まれ伊勢崎育ちの常連さんであった。それにしても安い。

・もんじゃ¥220 大盛り¥260
・もんじゃ(上)¥320 大盛り¥370
・やきそば¥270 大盛り¥370
・お好み焼き
 桜えび¥500 えび¥580 たこ¥600 いか¥600 ミックス¥780

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僕らは普通のもんじゃ大盛りと桜えびのお好み焼きを1つ頼んだ。おばあさんが一人でやっているので、出てくるまで時間がかかったが、味はすこぶる良かった。スルメイカの極細切りが入っているところも本物だし、鰹節もおばあさんが自ら削っていた。途中で30代くらいの女性客が入って来て、もんじゃを「お持ち帰り」していた。お持ち帰りとは? すなわち完成前の液体をビニール袋で持ち帰るのである。店内のショーケースから「ベビースターラーメン」を、この人は店内に入るなりいきなり3袋取り出して清算に持ち込んだ。隣のおばさん2人組に聞いたところ、これはもんじゃに混ぜる「具」なのだ、とのことであった。う~む。伊勢崎恐るべし。

そういえばカップ焼きそばのロングセラー「ペヤングソース焼きそば」を製造しているのは、伊勢崎にあるメーカーである。ソースカツ丼の発達といい、群馬の庶民食のルーツは深くなかなか面白い。意外な場所で安・旨の名店に出会うのは旅の醍醐味である。僕らが夢中でお好み焼きをパクついていると「じゃ、ごゆっくり」とおばさん二人組はにこやかに去っていく。入れ替わりに30~40代と思われる子連れ親子が入ってくる。彼らもベビースターをすでにゲットしてテーブルに置いており、子供はラムネを飲んでいる。僕の子供時代に戻ったような、懐かしい光景だった。

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帰りに再び郊外店の林立する「看板乱立街道」を通る。あの狭いお好み焼き屋の残る界隈と、この無味乾燥なガラスとコンクリートとプラスティックの世界とを、「子供が育つ環境」として比べ、考えてしまった。以前のブログに書いた建築家の言葉を思い出す。「都市とは、その通りを歩いているひとりの少年が、彼がいつかなりたいと思うものを感じ取れる場所でなくてはならない」

そして、先日ファミリーレストランで見た「トレーサビリティ」の表示を考えた。食素材の出所を明らかにする安心表示である。一方が競争に勝ち残るための徹底管理の世界なら、おばあさんのお好み焼き屋の界隈は、共同・共存の世界である。お好み焼き屋のおばあさんにはこんな証明サービスは不可能だし、また必用もないのである。

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