高崎のE、ふるさとの森???


まずは今日の『毎日新聞』全国版記事をごらん下さい。

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筑波山の森林再生、霞ヶ浦の水質浄化を目指す広葉樹植林。約200人の市民が2000本の植林(一人あたり10本)。すばらしい活動のように思えるが、その面積は400平方メートル、すなわち0.04ha=120坪=0.4反。1haの1/25の面積。よくよく計算してみると、たったの20m四方という区画である。

単純計算で1m×1mの中に苗木を5本植える超密植。それもそのはず、指導者は宮脇昭氏だ。潜在自然植生の樹種を混植・蜜植し放置して淘汰させる(優勢樹が残る)宮脇式植林なのだった。しかし、わがアトリエ敷地の畑よりも小さな区画で「筑波山の森林再生、霞ヶ浦の水質浄化を目指す」との文言はあまりに大げさでは?・・・そしてこの記事は結果的に「環境保全の動きがあるんだな」と市民にふんわり思わせ、さらに広葉樹植林を美化してしまう。

今年、僕はマップの取材で筑波~加波山の山を見てきた。実際には人工林の荒廃が最重要問題であり、それは間伐(すなわち木を伐って間引くこと)で解決する。20m四方の間伐なら、チェーンソーを使えばたった一人でわずか数時間でできる。筑波山の上部には原生的な広葉樹が残されており、間伐の空間にはこれらの広葉樹が植林せずとも自然に生えてくるのだ。そして生活の中で木を使う文化を取り戻すことが大事なのだ。

さて、今日は高崎に大型マーケットEがオープンする日。取材に行ってきた。車で近づくとまるで滑走路で空港の管制塔に向かうような気分になってくる。それほど建物がデカイ。Eは宮脇式植林で建物や駐車場の周囲を「ふるさとの森づくり」と称して、一般市民のボランティアによる植林活動をしている。これがその植林の跡である。10月1日に行なわれたもので(20,000本)、店内には植林の様子が写真展示されていた。

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それにしても、「分離帯の植え込み」にしか見えないんだけどこれが「ふるさとの森づくり」なのだそうだ。たしかに本数に換算すればちょっとした数字になる。だけど20,000本といっても、筑波の新聞記事の10倍でしかない。ha数にすれば0.4ha?(なんたって超蜜植だものな)。その植林敷地に比して建物や駐車場の開発面積のほうが圧倒的に広いのである。

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ところが看板の説明には「3年後、5年後、10年後、『Eふるさとの森』は命と心を守る豊かな環境を生み出すことになるでしょう。高崎から、日本中に、そして世界へ環境保全創造の輪を大きく広げていきたいと思っております」などと書かれている。

数日前の各紙の記事によれば、Eは海外中国市場にも進出、出店数を加速させている。そしてこの秋、約二千億円の増資を行うという。公募増資は7000万株。申し込みが殺到した場合は国内で630万株を上限に追加で売り出す。公募分の6割を国内、4割を海外で募集。国内は野村証券と大和証券SMBC、海外はゴールドマン・サックス証券と野村が主幹事を務める。

ああ、ナルホド。ここから先の批判にはタマリンは賢明にも口をつぐむ。一つだけ言えるのは、これだけの建物(公共の道路建設──もちろん上下水道、電気工事等も──がセットになっている)ができるには相当な長期的な計画があったに違いなく、巨大開発の免罪符としての植林美談は極めて重要な戦略だったのだ(そのためのコマとして宮脇氏がちょうど適役だったのだのだろう)。

宮脇氏のマスコミデビューに大きな役割を果たした本に『魂の森を行け―3000万本の木を植えた男の物語』一志治夫著がある。一志治夫氏はノンフィクションライターであり、ご自身が森林の知識や興味を持ち合わせているわけではない。おそらく宮脇氏も一志氏も、自分たちがこの恐ろしく巨大な流れに利用されようとは夢にも思われなかったのだろう。

これに関連してもう一人、建築家の安藤忠雄氏のことも思い出される。コンクリートと鉄とガラスの建築に植林の緑を対峙させるという手法である。

それにしても、このような仕掛けにあっさりハマって批判もなにもできない(なんたって僕以外にこれに迫るのは静岡のにゃんたろう君くらいしかいないんだから・・・)森林関係者にはまったくガッカリする。同じような美談植林に酔いしれているボランティアグループがたくさんいるんだからしょうがないか。地球環境は火だるまのレッドゾーン、しっかりしろ!

水のエッセイ

 


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