どぶろく第二回目を仕込んでみた。友人が送ってくれた新米残り3合を使って。普通どぶろくの材料は米なんだけど、前回はいきなりサツマイモで成功した。基本的にでんぷんやタンパク質、糖分があればなんでも酒が造れるということなのだ。
麹は市販の「みやこ麹」(甘酒用に市販されている)。酵母はパンに使うドライースト(製品名「スーパーカメリア」)を使うが、昔は麹を手作りした家も多かったそうだ(お隣イタルさんちの「バアさんは麹づくりがうまかった」(談)。昔は「麹屋」という店が存在したし、多くの農家山村では、米麹、麦麹、豆麹で味噌や醤油を自家製していたのである。
酵母は天然の野菜や果物、蜂蜜などに存在するので、そこから抽出すればいいのだが、これは案外簡単にできる。天然酵母の素材の材料を切って煮沸した瓶に入れ、水で満たして蓋をきっちりして無酸素状態を作ってやる。カビは雑菌は無酸素では生きれないものが多いが、酵母は大丈夫なのだ。ただし成長の過程で炭酸ガスを出すのでときどき蓋を空けてガスを逃がしてやる。
要するに「酵母菌はOKだけど他の菌は苦手」という酵母菌が働きやすい(増えやすい)状況をつくってやればいいのだ。その条件とは
・酸欠状態(カビに勝つのに有利)
・濃い糖分(甘いものは大好物/ただし全体の30パーセント以上糖分があると酵母は働かなくなる)
・レモン並みの酸性(細菌に勝つのに有利)
・アルコール(酸欠状態でも10パーセント以上のアルコールをつくり、それに耐える)
・とくに低温に強い
今回はドライーストと供にカリンで作った天然酵母水をちょっと追加してみた。この酵母水はマヨネーズに加えてドレッシングに使っても美味しい。香りがすばらしいのである。
さて、蒸した米に水を加え、各材料を入れる。酵母の最初の活性化を促すのに砂糖をちょっとだけ加える。後は一日2回ほどかき回してやや暖かな場所においておくだけ。自然の菌が相手だけに、行く末が心配だが、30分ほどでガラスごしに発泡してくるのが見える。容器に耳を当てると「シュワシュワ」と音が聞こえる。
夜は残熱のある薪ストーブのそばに毛布などでくるんで、昼間は陽の当たる廊下の影に日光に当たらないようにして。
6日目、出来上がりがこれ(写真左)。ほんとうはもろみのまま飲むらしいのだが、布で絞って漉したもの。4日目の試飲では甘みが勝っていたが、これはドライな仕上がりでなかなか旨い。アルコール度もサツマイモのときよりも高いようだった。右写真は本日のお姿(だいぶ減りましたw)。味は日増しに雑味が消え美味しくなってくる。蓋を空けるときポンと音がする程度だが、舌の上にはかすかな発泡感が感じられる。上澄みがサツマイモのときよりずっと多くて透明度も高い。ここだけ取り出せば清酒。火入れして保存することもできるわけだ(しないとやがてお酢になる)。
ところで、果物から酒を造るには麹はいらない。たとえばワインづくりには麹は使わない。米という穀物には糖分が少ないから、でんぷんやタンパク質を麹によって糖に変えてもらい、変わったとたんに酵母が働いて・・・という2段階の発酵が進んでいるわけだ。
これを「並行復発酵」と呼ぶ。ワインなどは初期の糖度に制限されるので、アルコール度は14度以上にはならない(最初に糖度が高すぎると今度は酵母菌が働かない)が、日本酒の場合は、並行して麹が次々に糖分を製造するので、度数が20度以上のものができる。
これが麹のすばらしさだ。日本酒の醸造は、麹ができる湿潤さ、森が生み出す旨い水、適度の寒さ(雑菌を押さえる)があって初めて達成される。今はガラスやプラスティック、ステンレスなど菌を遮断する便利な容器があるが、その独自の文化を支えていたものはおそらく、スギの存在が大きいのではなかろうか。
スギは割裂性に富み、軽いゆえ大きな樽が造りやすい。そして針葉樹なので雑菌が繁殖しにくい。長く使えばその表面に有用菌を住まわせることもできる(もとより木樽を完全殺菌するなど不可能なことである)。多くの酒蔵ではその年の新酒ができたとき門の前に杉玉をつるす。
囲炉裏のある空間は煙で燻されるのでもともと雑菌が少ない。アトリエの水は山の清水だから仕込み水としては最上級のもの。条件は良いのだ。ううむ、次は「麦」で試作してみるか・・・。