N先生の恩師がパン焼きの道具を持っており、私たちにパン教室を開いてくれた。天然酵母の本格的なパン(食パン)をプロ仕様の道具で作る。発酵に時間がかかるので朝7時開始。
まず粉の調合から。
香川産小麦「さぬきの夢」をなんとか使いたいというリクエストを聞いていただき、別バージョンには強力粉の中に1/4量のさぬきの夢を入れ、そちらはドライイーストで仕込む。
現在のパンはマーガリンやショートニングなど、トランス脂肪酸の油脂を使うことが多いが、本式にバターを使う。よつ葉バターの無塩のもの。
生地にローストしたクルミを混ぜる。
生地を練る機械。回転速度を2段階に調節しながら、お湯やバター、クルミを入れて練っていく。
重要なのは生地の温度を維持することで、冬は28度がいいということだった。そのために講師のK夫妻は工房の室温をエアコンで上げておき、お湯も用意されていたのだが、発酵温度がなかなか上がらない。
そのせいもあるのか、中力粉のさぬきの夢を入れたためにグルテンが弱かったのか、粘りも弱い生地になってしまった。とりあえず丸くまとめて焼いてみたが、焼き目の付かない表面がカチカチのパンになってしまった。まあ、それでも中はなんとか食べれる。
一方、レシピ通りの強力粉を入れた天然酵母の生地は、よく膨らんだ。
サイズに切って丸めて、型の中に詰めていく。丸めるといっても、独特の折り方がある。
こうして温度・湿度管理された機械の中で2次発酵させてから焼く。天然酵母の場合は、この時点でまたかなり膨らむのだそうだ。
ガス窯の保温・保湿部。上が焼き窯になっている。
発酵を待つまでにかなり時間があるので、その間にN先生が麹を仕込む。まずは白米を蒸しておき、それに混ぜる種麹(もやし)を調合しておく。菌の特徴が異なる3種類を混ぜ、微細な胞子を椿灰で増量するという本格的なもの。
布の上に蒸された米を広げる。
餅米ではないので粘りはなくパラパラをほぐれていく。熱いままだと菌が死んでしまうので、団扇で冷ましながらほぐす。
かといって冷ましすぎると発酵が止まってしまうので、ほどほどにする。調合した菌を茶漉しでまんべんなく振りかける。
それを手で散らすようにして混ぜ、もみ込む。
紙袋に入れ保温する。麹菌の繁殖に最適な温度は36度。発泡スチロールの箱に入れ、ヨーグルト用の保温器やお湯を入れたペットボトルで温度調節する。発酵してくると自家熱で温度が上がってくる。
ここから丸2日ほど温度管理が必要になるが、それはN先生にお願いすることにした。
讃岐では正月に白味噌で雑煮をつくる。麹は白米1kgで約1.1kgの麹ができる。それに440gの大豆と合わせ、5%程度の塩分を加えれば讃岐の白みそができる。麹があれば白味噌はわずか2週間でできるそうだ。
12月上旬、大豆を煮て麹と塩を合わせれば白みその仕込みが完了する。仕込みの間まで麹は冷蔵保存できるし、分量の塩を混ぜておけば「塩切麹」として発酵を止めることもできる。
さて、もうすぐ天然酵母の方が焼き上がりだが、前回のさぬきの夢入りが失敗作だったので気が気ではない。
窯の窓から様子が見える。いい焼き色は付いている。
時間が来て窯の扉をオープン! すばらしい芳香がする。
取り出す。
板の上に型の底をドンと当て、衝撃を与えれば外れるはずだった。ところが型にくっついて出て来ない。包丁で接着面を剥がして、ようやくご対面♬
夜の7時近くになっていた。実に仕込み開始から12時間後の完成である。パン作りにはいくつものハードルが待ち構えていることが解った。それだけに喜びもひとしお。
さて、パン作りは発酵食品ゆえ、作業間に待ち時間がけっこうできる。その度に指導を受けたK夫妻の本宅へおじゃまし、お茶をごちそうになった。北欧輸入のログハウスである。
雨の中、たくさんのお土産をいただいて帰宅。車の中は馥郁としたパンの香りに満たされて、まるで天国のようであった。