山村のコンクリート


午後、イタルさんがやってきた。

「オオウチさんとこの庭のザリ、貰えねえかい・・・」

ザリって何? と思ったが、よくよく聴いてみると、コンクリートを打ちたいので骨材の砂利(ジャリ→ザリ/群馬の訛り?)が必要、ということらしい。

工事現場はアトリエのコペン駐車場のある道(イタルさんも日常使っている)。その割れ目を直したいということらしかった。へこみは電柱の工事の人が作ってしまったらしいが、実は数ヶ月前から、穴の陥没がやや大きくなり、心配していたところだった。

で、その穴にコンクリ-トを打って塞ぎたいのだが、セメントは水で練っただけでは強度が弱い。その中に砂と小石(ジャリ)を混ぜるとコンクリートになるのである。

イタルさんの言う「庭のザリ」というのは、アトリエに隣接するイタルさんちの下屋の雨排水が、一部ウチの庭を伝って石垣から落ちる(染みる)ようになっているのだが、その溝をいっしょに掘ったこときジャリが多く出てきたのを、イタルさんは覚えていたのだった。

「今日は出かけるのかい?」

「手伝いますよ」

山村では突然仕事が始まるのだ。コンクリートの打ち方を覚えるいいチャンスである。

イタルさんはこの地で養蚕と農業で暮らしてきた人だが、出稼ぎで土木工事に出たときもある。だから、現場仕事はとても詳しい。山村の人たち(7~80代の老人たち)は、身の回りのことは木こりも土木工事も大工仕事もほとんどこなす。凄いことである。

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庭を掘り返し、フルイで土を落とし、残った小石を水洗いする。最大で直径3cmくらいの丸石である。泥がついているとコンクリーとうまく親和しないということなのだ。近辺の沢にも小石はあるが、山石はゴツゴツしていて割れたり欠けることが多い。だから昔は神流川の河原まで下りてジャリを採取してきたという。川の石は流されるうちに角がとれ丸くなっている。強度の弱い石は砕かれて砂になってしまう。残った丸石は強いのである。なぜかわからないが、その丸石がウチの庭に埋まっていたのだ。

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それが終わると運搬車で現場まで運ぶ。石は重い。背負子で運ぶとなるとけっこう大変なのだ。運搬車というのは、耕耘機ハンドルでキャタピラ付きの台車みたいなもの。

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道はコンクリート舗装なのだが、中に排水路があって沢水と下水が流れている。だから破損した穴から、下の流れが見えているわけで(鉄筋も見える)、そこを型枠で押さえないと、コンクリートが水路に落ちてしまうのでは? と思ったが、この程度は大きめの穴だけ石で塞いでおけばよく、あとはセメントに混ぜた小石で、塞がれていくという。小石が入る余地を残しておけ、ということなのだ。むしろ、最初に石で塞ぎ過ぎてはいけない。セメントと小石の流動体が厚みをもってここを塞いだほうが、固まったときに強度が増すというわけだ。

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コンクリーを打つところを掃除。枯れ葉や土などを取り、コケなどがあればタワシや棒切れでこそげ取る。水をかけながら泥などを落とす。接着面をきれいにしないとうまく着かない。

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砂とセメント(一袋、25kg/600円)をスコップでよく混ぜ、さらに小石を入れて混ぜる。セメント:砂:骨材=1:3:6の割り合いがいいんだそうだ。某大学工学部土木科卒の僕としては学校でいろいろ学んだはずなのだが全部忘れてる(=.=)。

水を入れてよくかき混ぜる。これがけっこう大変。粘り具合は、粉があってはいけないし、かといってかき混ぜたときに水が滲まない感じ。スコップの先でつつき、裏を使ってペタペタ均していく。なくなったら2回目を同じように混ぜて打つ。

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コテで仕上げる。浅いところは小石をコテで掘り出し、深いところに押し込む。そのとき。下方にたるんで溜まりがちなコンクリートをコテで上側にズっていき、均していく。穴からコンクリがどんどん落ちて、足りなくなるのではないか? と心配したが、そんなことはなかった。

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最後にバケツの水を箒の先につけて、コンクリートの表面を横に掃くようにして均していく。さらに既設と新設の境界を箒の先で叩くようにして外側に向けて馴染ませていく。

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出来上がり。乾くまで1日かかるので、上を車に通られないように目印を置く。やや乾いてから、ムシロをかけて凍結を防止する。イタルさんが使っていたコテを激写。手製かも?

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コンクリートはたしかに便利である。その素材と技術は、これまでの土木・建築史を大きく塗り替えた。が、俗悪なものや環境を破壊するものも多く生み出した。でも山村では、「コレでなければならない所」に使われている。

それにしてもイタルさんの作業姿は決まってるよな。スキのない格好、ムダのない動き。絵になるのだ。YKの撮ったデジカメ写真を通覧すると、僕は遊んでいるように見えるのはなぜなんだろう?


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