「水が出ねえんだよ」と、早朝イタルさんが訪ねてくる。ウチの台所も、外の水も出ない。タンクを調べに行くと、水源からの水は来ている。どうやらまたパイプが詰まったらしい(昨年も同じことがあった)。
まずは蛇口側から自転車用の空気入れとゴムホースを使って空気を送り込んだりしてみるがダメ。昼食後にタンクの水を抜いて調べようということになる。
3軒共同の水道中継タンクは40年以上前に現場打ちのコンクリートで作られた大きな水槽で、中に降りるには梯子がいる。泥抜きの栓を抜いて水位がやや下がったところで、むかし釣りに使っていたバカ長を履いて水槽に降りる。
水の出口にはゴミ避けの網がかけられているのだが、そこには付着物はない。網を取って流出管に長い針金コードを差し込んだり、布をまいた木の棒を押し込んでゴシゴシと何度も動かしてみる。昨年はこれで流れ出したのだが、今年は手強い。
イタルさんもYKも、水槽の上から僕の動きを固唾を呑んで見守っている。何度か水が引く動きがあったが、ついにぴくとも水が動かなくなってしまった。
そのうちに雨が降り始め、雷まで鳴り出す始末で、いったん家に戻り待機。なんと大粒の雹(ヒョウ)が降り始める。イタルさんちのナスは葉に穴が開いてしまったとのこと。アトリエの畑ではゴボウの葉っぱが穴だらけになった。
雨上がって、とりあえず全部の水を抜き、水槽内を掃除してからまた膝くらいまで水をためて、同じことを繰り返す。が、やっぱりダメ。さあ大変だぜ! イタルさんとYKは下の埋設管を掘り始める。
流出口には網をかけていたのだから、石のようなものが詰まるとは考えられない。詰まりの原因は何か有機物なのだ。いつかは溶けて流れるかもしれないが、暮らしに関わる水のことなので時間の猶予はない。詰まっているカ所は「曲がり」か「分岐点」か「バルブ」などのヤクモノ管の部分が考えられる。
その部分を掘り出すのがまた一苦労だ。外に出ている管から推察して慎重に掘り出すのだが、そこを切断したとして詰まりの原因がそこにあるかどうか?
流出から来て最初の分岐点のT字管に目を付けてツルハシで掘っていると、老化のせいもあるのかちょうどT字の部分が折れてしまった。そこに、植物の繊維状のものがびっしりと詰まっている。YKに水槽のバルブを止めてきてもらい、その繊維を引き抜くと、なんと50cm以上にもつながった植物繊維の塊が管から引き出された。イタルさんもびっくりだ。原因はコレだったのだ。
T字の分岐管はアトリエの台所配管なので、その工事は後回しにして、とりあえず穴を塞ぐ臨時工事をして(布とビニール袋を巻く)再びYKに水槽のバルブを開けてきてもらうと・・・
「出た!出た!」
アトリエの外水もイタルさんちの外水も、蛇口をひねると勢いよく水がほとばしり出た。やれやれ、1日がかりの大仕事であった。
イタルさんが焼酎を持って来てアトリエで飲もうということになる。囲炉裏に火をつけ、お湯を湧かしてYKと三人で飲む。
「助かったよ」
「いやあ、やっぱり水まわりは定期点検しなきゃいけないってことだね」
「オレも今年で80だからな、まったくオオウチさんが頼りだよ」
「・・・」
山村に住むには何でもやらねばならない。だが、トラブルはけっして悪いことではない。今回のことで埋設管の位置がほぼ把握できた。
酒が進んだ頃、赤城で貰ったヤーコンを畑の春ダイコンと交換しようとやってきた藤岡のIさんが合流する。ヤーコンをスライスして出すとイタルさんはえらく気に入った様子。今年収穫できたら分けてあげよう。