限界集落


山を下りる老人たち


雨が上がった。集落のSさんがお隣のイタルさん宅に遊びに来たついで、ウチでも立ち話をしていった。Sさんはもうすぐ85歳の一人暮らし。耳はやや遠いが元気である。自宅からちょっと離れた畑まで、バイクで移動しているのだが、そのバイクのエンジン音が特異なので、アトリエからは「ああ、今日もSさん元気だね!」などと、YKと和んだりするのである。

が、久しぶりにY先生にも会い、挨拶をすると「もう藤岡へ降りることにしたよ」という。厳冬期には藤岡のマンションで過ごされるY先生ご夫妻であったが、今年はついに山村を撤退される。まだ車が運転できるうちは畑に通うつもりであるという。そして先日、集落で50代の女性が癌で亡くなられ、そのお悔やみに行ってきたばかりだった。この集落の未来を考えると暗澹たる気持ちになる。「限界集落」という言葉があるが、わがH集落はとうに限界を通り越しているのだ。

山村切り捨ての現実へ


昨年の台風で壊れた道は、スーパー林道側は直ってきたが、国道側への道(こちらが集落の本道である)はまだ復旧が終わっていない。なにしろコンクリート擁壁が基礎から崩落するという大きなものだった。これだけでも数千万の工事費になるだろう。

日本の土地は大規模な集約農業には適さない。しかしグローバル化のあおりを受けて、大きな平野のある所ではこれから大規模農業への変化が強行させられる。必然的に「山村は切り捨て」に向かっている。「そんな山村のインフラに金を使う必要はない。あんたたち山を降りて町のマンションに集団で住めばいいし、そこから車で作業に通えば?」都市にはそのような暴論を吐く者も現れている。

農山漁村が山河を守ってきた


しかしこの人は、日本の気候風土と、それに根ざした本来の農林水産業の姿と、その歴史を知らないのだ。日本の自然は豊かで、森の国だとはいうけれど、列島の自然は過酷である。地形急峻で雨は梅雨と台風があり、日本海側では豪雪。しかも火山国で岩石はもろく、地震もある。山村に散らばって住んでいる人たちの共同作業が、それらを保全し、守ってきた。

一方で豊かな水と、夏は日照が長く高温になるという条件が、植物を繁茂させる。厳しい気象条件だが、土地に手をかけることで、様々な生活の基盤となる植物を育てやすいのだ。たとえば日本の稲作は、気の遠くなるような土木工事の連続で平野をつくり水路を張り巡らせ、それを根気よく補修することで育まれてきた。手入れと補修の連続が、日本の自然を豊かに育ててきたのだ。それを無言で行ってきたのは農山漁村の人たちである。

コンクリート土木の出現は「土地に手をかける」重労働から人々を解放し、多大な恵みをもたらしたが、弊害も大きかった。これから山村に人が少なくなればなるほど、崩壊の補修には無味乾燥なコンクリートが塗りたくられるだろう。こうして傷だらけの国土をつくれば、結局損をするのは都会の人間なのだ。

水源を汚染せず、農地と山の手入れを


ふと、いま強行されている八ツ場ダムの工事現場を思い浮かべる。工事はすでにかなり進んでおり、山が削られ醜いコンクリートの壁がどんどん作られている。そのダムにやがて集まる水には観光地の温泉廃液や、牛のし尿や、農薬が混入する。それを原水として水道を飲むのは東京都民だ(これができると都民は地下水を使うこともできなくなるという)。希釈しているからいいというものではない。水は情報を転写する物質だからだ。

本当は、豊かな山と清浄な農地を確保して、できるだけ都市でも地下水源を使える工夫をすることが本筋なのだが、なんという禍根を残す未来を選択しているのだろうか。これからはコンクリートや農薬などの化学物質をできるだけ少なくした、生き物と共存できる農地を取り戻すこと、そして山の保全にもっと細やかな手をかける必要がある。「スギを伐って広葉樹を植えろ」という無知さ加減も困るが、「間伐しなくても森は育つ」などという不思議な意見も出てきているのはどういことなのだろうか?(これらはいいように利用されてしまうだろう)。

『寒川』という「限界集落、中山間地の過疎化、環境問題」をテーマとする映画が制作上演されているという。寒川とは宮崎県西都市にある集落である。オフィシャルサイトもあるようだが、わがアトリエはISDNゆえ長い動画は見れないのだ。

http://www.sabukawa.com

3月1日のブログで紹介した映画『三池』のオフィシャルサイトもあるようなので、以下に紹介しておきます。

http://www.cine.co.jp/miike/

 


コメント

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