近代田舎創造社・赤城温泉御宿総本家


住宅や店舗などの設計を手がける「近代田舎創造社」の田胡さんは、かつて大手住宅メーカーに勤めていた時代もあったそうだが、5年前にこの赤城南麓の雑木林を購入。林床にはびこっていたアズマネザサを刈り、太くなっているコナラなどの木を倒した敷地に、毎年1棟のペースで小屋を建てている。

最初にお茶をいただいたガラス建築もその一つ。他には、どっしりとした石窯を据えたギャラリー風の建物あり、柿葺きの茶室あり、掘っ立ての炭焼き小屋もある。敷地の高台にある自宅とされている家を最後に案内していただく。


玄関には古材の梁や框が使われる中に、なんとベネチア・グラスのシャンデリアが下がっていて不思議な調和をかもしている。多胡さんはイタリアで仕事をされていた時代もあったという。古材の床と塗りの壁、天井には新品のスギ板がいい感じで調和している。

和室の構成やねじれ木を使った床柱にも驚かされたが、凄かったのは次に見た薪ストーブの据えられた洋間の梁だ。かつて見た福井の鋸谷さんの旧宅と同じように、チョウナで削られた”ねじれ曲がり”の木々が、互い違いの井桁に組まれているのである。その材は、森から伐リ出したアカマツで、ご自身でチョウナではつったものだという。

「あの・・この梁って飾りじゃなくて構造材として機能してるんですか?」
「当たり前だよ。この家はこの梁でもってるワケよ」

ああ、建築家に向かってバカなことを訊いてしまった。

「最近の大工ってチョウナなんかもちろん使えないが、年寄りの大工には稀に使える人がいる。それでも仕事がまどろっこしいとオレが自分でやっちゃう」

というわけで、その場でチョウナの使い方のコツなんかを伝授してもらったりした。現代の腐りきった疑似木造新建材建築とか大手メーカーもどき高級自然素材住宅を打破する凄い人が現れた、と思った。が、多胡さん自身はPCを使っておらず、ネットによる発信はまだしていないという。

ところで今日の目的は温泉なのだった。その後、多胡さんに赤城温泉「御宿総本家旅館」まで案内していただく。赤城温泉は前にTという温泉宿でボラれて頭にきたり、忠治館で日帰り入浴したり、けっこう訪れているのだが再奥にあるここは初めて。

外出中だったご主人の東宮さんが戻られ、僕らの来訪に驚いている。こっちは旅館内にびっしりと掛けられた展示物に目を奪われている。それは東南アジアの仮面ありアフリカの土偶ありはたまたクジラのペニスの剥製まであり、ウワサには聞いていたがかなり怪しい。が、なんだかマイナーな波動はないのが不思議だ。

古くなった旅館の建物周りを、東宮さんはご自身で改装したりしていて、多胡さんを「師匠」と呼んでいる。以前聞かせてもらった石柱の裏門を見せてもらったりしてからいよいよお風呂へ。

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温泉は炭酸泉で黄濁していて、Tや忠治館とは別の源泉だ。ちょっとぬるめだが源泉掛け流しである。入浴後はいつまでもポカポカと身体が温かいのだった。その後も多胡さんと話し込んでいるうちに夕食までごちそうになってしまう。

全体にダークトーンの置物の中に、オノサト・トシノブの絵がひときわ鮮やかに見える。東宮さんがなぜ僕らの存在を知り個展に来てくれたかというと、僕が桐生出身の画家、故オノサト・トシノブのことをHPで書いていたのをご覧になられたからだという。東宮さんはオノサトの義兄にあたる方なのだ。


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