林道取材9.(花窟にて、宮川村再訪)


朝方、また温泉につかってから出発。温泉街の喫茶店で朝定食を食べる。朝開いている喫茶店はきまって爺婆様の天国だ。「あんたたちどこから来たの?」とか「かわいい車だねぇ」とか話しかけられつつ、干物をつつくのであった。

本州最南端の潮岬をめぐり、昨夜泊まる予定だったキャンプ場も見に行く。長期滞在の雰囲気の先客あり。洗濯物が干してあったり、太陽電池を掲げていたり、かなりのツワモノである。

初めて熊野を訪れたとき見逃していた「花窟神社」(はなのいわや)へ行く。ここがすばらしかった。大岩がご神体であって、銅製(?)の御幣が立ててあるだけで社殿はない。祭神はイザナミノミコトだが日本書紀によればここはイザナミの墓所なのだ。

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前回の熊野行脚で、那智の滝で受けたと同じような既視感をここで感じた。頭の中が静寂になり、奥から雅楽の音が流れてくるのである。

せっかく熊野まで来て魚を食べないのもナンだし、尾鷲あたりで回転寿司をみつけて入る。最後にいよいよ中トロを注文。さすがにマグロの本場! が、貧乏旅ゆえ1皿だけしか注文できない。

尾鷲の山はヒノキの密植の山が多い。相変わらず線香林だらけで間伐はかなり遅れている。皆伐跡地は黄緑色の絨毯のように見えるのは、シダが繁茂しているという珍しい光景。

尾鷲から旧宮川村に抜ける林道は閉鎖されていた。旧宮川村(現、大台町)の山は3年前の台風被害で死者7人を出すという甚大な被害を受けた。人工林率80パーセント以上のこの地の被災状況を見ておきたい。それも、今回の旅の目的だった。

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なぜなら、この地はかつて伊勢神宮の宮域林と同じように、御神木を出すほどの自然林があったのであり、その後は薪炭林となり、やがて拡大造林を経て広大な人工林地となったのである。宮域林とは近く、同じ条件なのにここは壊滅的な被害を受けたのだ。そして、この山はかの有名な「速水林業」の裏側、という地にある。さらに、この被災地にはかの巨大マーケット「E」が広葉樹を植林をしているのである。

役場を過ぎたあたりから被災の後が現れる。大型トラックが行き来している。人工林は相変わらず間伐されない線香林のまま、災害復旧の土木工事がどんどん進められているようだった。夕暮れの時間が迫っていた。せめてEの植林跡地だけでも見ておかねば、と思った。

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「大杉谷自然学校」の看板が見えた。今から5年前、2002年の5月に僕はNPO主催の林業見学ツアーでこの宮川村を訪れた。そして「大杉谷自然学校」の代表、大西かおりさん(当時、30歳)の話を聞いたことがある。荒廃人工林の現状を心配しているご様子だったので、僕は帰宅してからすぐに『鋸谷式新間伐マニュアル』を学校宛に送った。

ドアを叩くとスタッフが現れ、地図でEの植林地の概略場所を教えてくれた。この自然学校のスタッフも植林を手伝ったという。そしてなんとその大西さん本人も居て、僕が本を送ったことも覚えておいでであった。中でお茶をいただきながら話を聞いた。ここのスタッフが今回の被災をどのように考えているのか? それを聞いて、僕らは身体の力が抜けるほどの失望を覚えた。

大西さんによれば、「最初は人工林の手入れ不足が被害の引き金になったと考えたが、今では植生や手入れなどの次元を超えた大雨であったと考えている」という。そして「間伐材は使わない。年輪が密な木のほうがいい」というので、相変わらず間伐の手入れを急がない考えという。

そして、これから僕らが伊勢神宮に行くと知ると、「伊勢神宮の木はすばらしいですよ、ぜひじっくり見てきてください」などと言うのである。どうやら、僕が送った本を読んでいないか内容を忘れていらっしゃるようだ(拙著『鋸谷式新間伐マニュアル』は、伊勢神宮宮域林の紀行文で最後をまとめている)。

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時間のムダと思い、僕らは車に戻って撮影を続けた。が、時間切れでEの植林跡地にはたどり着けなかった。

この期におよんでなぜ「年輪が密な木のほうがいい」などという言葉がでるのか? 思い当たることがあった。近隣の速水林業の代表、速水氏が関わっている組織に「文化遺産を未来につなぐ森づくりの為の有識者会議」というものがある。この中で同じく共同代表理事である哲学者の内山節氏が、密な年輪の木を賛美するような講演をしているのである。


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