ヒノキ林に広葉樹は生えないのか?


スギ強度間伐で育つ広葉樹


翌日はスギ林に入って皮むきをやってみた。ここはアトリエの敷地の中ではいちばん建物に近いので間伐しながら材をよく運んでいるところ。かなりいい感じになってきました。

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すこし上のほうはまだちょっと暗い場所。ここで巻き枯らし間伐を数本。やっぱりこの時期はむけるものもあり、むきにくいものもあり、という感じだった。

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強度間伐した場所では後続の広葉樹の育ちもよく、幹が親指大になってきた木もある。ユズリハ、シラカシ、カエデなんかも育っている。もちろん、伐らないで、残しているからだ。シラカシなんて近くに母樹があるわけじゃないのに、けっこう出てくる。カケスをよく見かけるので、かれらが運んで落としていくのだろうか。

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人工林の中の広葉樹の樹形


篤林家の人は、このせっかくの広葉樹を伐ってしまうのね。間伐した後に生えてくる広葉樹は敵なんだな、彼らにとっては。自分の植えた木の幹の成長が目視できないのが嫌みたい。でも、森のためには残したほうがいいと思うよ。中で広葉樹が育ってしまったら、スギ・ヒノキの収穫のときに邪魔で困るじゃないか? と思われるかもしれないが、けっしてそうじゃない。

なぜかというと、針葉樹の中で育った広葉樹というのは、下部の光が制限されるので、枝を大きく横に張れない(枯れ落ちていく)。それで、たとえば通常は箒状に枝を張る木でも、この中では通直の幹に育つ。上のほうだけに生き枝を伸ばす樹形になり(つまり、枝打ちしたスギ・ヒノキのような格好になる)、それほど伐採の邪魔にならない。そればかりか、その広葉樹自体も、通直の幹が長いわけだから、材としてお金になるわけ。

なぜ、このような施業にみんな気がつかないか? 不思議に思うでしょう。それは、誰もやったことがないから、日本の林業にそのような施業の歴史がないからです。これまで、有名林業地では、細かな間伐を繰り返すことで、その材を有効に売り、木の成長の速度をぎりぎりにコントロールしながら、商売してきた。広葉樹が生える余地がなかったし、生えてきても若いうちに伐ってしまった。新興林業地ではそれを真似てきたし、国もそのように推奨してきた。

広葉樹は植林しないと生えないのか?


だから、信じられないかもしれないけど、林野庁にいる若い人たちの中には、今でも「人工林を間伐しても広葉樹は生えない。広葉樹は植林しないと生えない」と思っている人が8割くらいいるという(内部告白の実話です)。研究者の中にも「ヒノキの間伐地には下草や広葉樹が回復しない場所がある」なんてことを書いている人がいる。

けっしてそんなことはない。それは「伐り方が足りない」(間伐が弱すぎ)だけなんですね。従来の間伐でものを計ってもらっては困るのです。その証拠に、ヒノキの皆伐採跡地が禿げ山になったなんて聞いたことがない。

雪折れや風害のあとの整理には、もしくは植林の前には、「大刈り」と称して広葉樹を切って、それを「巻き落とし」といって束にして転がして、地ごしらえをしてるではないですか。その広葉樹は植えたものなのですか?

現在の日本では、皆伐採跡地は放置しておけばほとんど緑に覆われます。中にはツル類で覆われて薮になり、森にはならないという人もいるけれど、ツルを伐って自然に生えてきた小木の周りの草を刈ってやれば、木は育つに決まっている。手入れをすれば植えなくても森ができるのです。

シカ対策は高刈りで


シカに食われるって? 獣害にはやや高い草刈りをすることだ(餌を残す、獣の腹の高さに刈ると林内への侵入をいやがる/『図解 これならできる山づくり』参照)。

皆伐採跡地にはきまってタラノキやノバラのような棘のある灌木が生えてくる。それらはすぐに地面に根を張り巡らして、斜面の崩壊をふせぐ。彼らの棘は、きっと獣害から身を守る自然の知恵だ。ところが、現在の林業はそれらを根本からきれいに刈ったあとで、新しい木を植える。これではシカに食べてください、といっているようなものだ(その木に今度はシカ避けのチューブを巻いたりしている)。

しかし、林業関係者というのは、どうしてこう馬鹿ばかりなのであろうか? 研究者にいたっては重箱の隅をつついているだけで高給を貰っているのだ。とんでもないことである。彼らの中に、日本の山をなんとかしようと真剣に思っている人は、本当にごくわずかしかいない。

皆伐するよりも、強度間伐して、あるていど光を制限したほうが、後続の広葉樹は育ちやすくて便利だ。5年10年放置しても自然に育ってくれる。強度間伐の作業時にツル植物を切っておき、たまに見回って、勢いのいい広葉樹のための徐伐をする程度でいいから楽だ。

伝統が常に正しいわけではない


これまで全国の人工林を見てきて、ハッとする奇妙な光景に出くわしたことがある。伊勢の尾鷲の林業地で、ヒノキの皆伐採跡地が遠目に芝生のような淡い緑に覆われていたのだ。普通なら、灌木やツルに覆われて、様々な色の緑がごつごつとしているはずなのだ。近づいてみるとその緑はシダだった。かなり地力が痩せているように思われた。

尾鷲は江戸時代からヒノキの有名林業地。その施業形態は密植で、暗いヒノキ林を仕立てながら、間伐材を海に落として舟で江戸へ運んでいた、というような古い林業地である。ヒノキは土地の養分を吸い尽くす木といわれているが、岩がガラガラのような痩せ地でも育つ。雨の多い尾鷲という土地で、ヒノキの密植を何世代も繰り返したら地力が落ちて当然である。しかも近代林業の中では下刈りの手間を解消させるためにケミカルな除草剤をまいている施業地が尾鷲にはある。それでも、皆伐採跡地がハゲ山にならずシダが地面を守っているのだ。

古くから行われていることが、すべて正しいというわけではない。ヒノキ人工林の中には、広葉樹を積極的に残していくべきである。強度間伐で明るいヒノキ林になる施業に転換するべきである。そうすることで、ヒノキ以外に依存する昆虫や鳥たちが飛躍的に増える。結果として天敵の均衡ができて、害虫も減っていく。表土も堆積して土地が痩せるのも防げる。

これまで『鋸谷式 間伐マニュアル』『図解 これならできる山づくり』『図解 山を育てる道づくり』と出版してきたので、もう日本の山も変わるかな、と思っているのだが、相変わらず変わらない(変われない?)関係者の文章に出くわすとがっかりする。なので、時々こんな文章を書かねばならない。

鋸谷式間伐のWEB用ダイジェスト版を書きたいのだが(鋸谷さんに了解をとってある)時間がとれないのだ。とにかく、買うのがいやなら図書館で借りてでも読んでくれ! と言いたい。


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