森のこと(4)/石城 謙吉『森林と人間』を読む


8/30の続き。

ヨーロッパの森の歴史

苫小牧演習林の変革をみる前に、同書(『森林と人間』)に沿いながらもう少しヨーロッパの森と林学の歴史をみてみよう。

もともとヨーロッパは、豊かな森林に恵まれた地域だった。全土の95%が森林に覆われていたという。

やがてローマ帝国による道路や橋などのインフラ整備が進み、キリスト教勢力の浸透とともに農業開拓が進むようになった。人口増大とあいまって農業開拓が急テンポになり、13世紀には、ヨーロッパ西部ではほとんどの森林が消失(!)。18世紀には、95%もあった森林が20%程度になってしまった(!!)。

しかし、こんなに森を破壊して、どうして正気でいられるのだろうか? そもそもヨーロッパの麦作は牧畜とセットで行なわれた(ここが日本と根本的に違う。日本は稲作中心であり、連作障害が少ない上に、単位面積あたり麦作より多くの人を養える)上に、キリスト教を背負っていた。「人は神の名のもとに自然を支配する」という強烈な一神教である。

さらに、製鉄や建築をはじめとする工業の発展から木材の需要も生まれていく。そして18世紀後半・・・産業革命の幕が切って落とされ、森を食い尽くしたヨーロッパ人は海外へ植民地政策に乗り出していくのだ。

効率最優先のドイツ林学を導入

こんな中で生まれたのがドイツ林学なのであるから、中身は当然「効率最優先」のものになる。もともとはブナやナラ類が多かった森を、効率の良い針葉樹に樹種替えし、持続的に収穫するために、林齢の異なる造林地を計画的に作っていくのである。

さて、日本は、このドイツ林学を明治時代に導入した。近代化を急ぐ日本がこの理論を受け入れたはいいが、風土の違いはいかんともし難い。偏西風地帯で穏やかなヨーロッパの気候に対して、日本は温帯モンスーンで激しい気候であり、昆虫も多い。人工造林を進めると気象害と虫害が多発したのであった。まあ日本の山村の古老たちに言わせれば、いじってはいけない奥山は絶対に木を伐らないとか、昔から守られていた不文律があり、大学の先生や役人の言うことなど無視していた人もいたようだ。

しかし、戦後の荒廃期には再びこの理論が免罪符となって、再び大々的な伐採と、針葉樹の造林が進められたのである。もちろん都合のよいこともあった。細い間伐材が建設資材の足場丸太に、あるいは炭坑の坑木に、多いに必要とされた。細い間伐材が飛ぶように売れたのである(もともと北海道に自生しないカラマツが大量に植林されたのも炭坑のためだ)。石油やガスなどの燃料もなかったり不足していたから、竹竿でスギの枯れ枝を叩いて落とし、それを燃料に奪い合ったのが、いい枝打ちの空間づくりになった。

かつての演習林の姿

ところで、苫小牧演習林がこの近代理論によって林種転換される前の姿はどんなだったのだろうか? 石城さんが赴任された頃はまだ、演習林の作業員さんの中に昔の森の姿を知る人がたくさんいたそうだ。そこで一升瓶を下げて、これらの人のお宅を訪ね歩き、夜遅くまで話を聞いたという。

「その彼らの話から浮かび上がってきたのは、信じられないような森の姿だった。この演習林も戦後間もない頃まではまだ人工林も今ほど多くはなく、多くの部分がミズナラ、ハリギリ、シナやハルニレなどの落葉広葉樹大木にエゾマツが混じる天然林に覆われていた。その天然林は昼でも薄暗い感じで、現在のように薮はなく、大木の幹の間を森の奧まで見通せたものだ。それに今と違って、樹木の幹には苔が厚くついていたーー」

「まさに壮大な原始林の姿である。私には遠い昔の不思議な話のように聞こえた。しかし実際はたった2、30年前、ついこの間までの、この苫小牧地方演習林の森の姿なのであった。」

「さらに、職員からこうした話を聞いて間もなく、終戦直後に米軍が撮った航空写真が事務所に保管されていることがわかった。早速それを見ると、それには戦後の拡大造林が始まる前のこの演習林の全貌が写されていた。私は息を呑む思いだった。そこには創設以来この演習林の南側に地域につくられていた人工林も写されてはいたが、その他の地域はその後に写された航空写真のとは比較にならない巨大な森天然林の樹冠(樹木の梢)に覆い尽くされていたのだ。古くからの職員の語る通りの森が、そこにはまざまざと写し出されていた」(『森林と人間』40~41ページ)

そして古くからの職員の口から誰もが言ったのは、洞爺丸台風が追い打ちをかけたということだった。拡大造林が波に乗った頃に巨大台風がおきた。その風倒木処理のときに、残っていた木も全部伐って出してしまったのだという。

つづく。


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