旧アトリエのあるH集落も10cmほど雪が積もっていた。
午前中はお隣のイタルさんと雪かきをする。共同で使っている車のUターン場所に竹林の竹が雪の重みでかぶさっている。それをナタで伐って退かし、スコップで雪を払う。イタルさんからナタを借り、曲がった竹の先を手元に引き寄せて、手の届く高い位置で竹を伐る。先端がナタで切断されたとたん竹は跳ね上がり、元に戻ろうとする。そのとき頭から粉雪をどっさりかぶる。帽子と防水ジャケットが必須の作業だ。
その後、道の雪かきをする。よいタイミングで山に来れてよかったと思う。イタルさんもさすがに80歳。これを一人でやるのは半日仕事になってしまうだろう。水源を3軒で共同しているもう一件のOさんは昨年秋に山を下りて藤岡の息子さん宅にいるそうだ。
この竹林はOさんの所有なのだが、間伐できないので密になり、竹は倒れやすくなっている。またこの竹のおかげで道の陽当たりが悪く、降雪時に雪かきをしないと凍結して道が使えなくなる。
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椹森と持倉の間にある渓流釣り場「ようらく」さんにお邪魔した。管理棟にYさんがいて、ダルマストーブに火が入っている。コーヒーをいただきながら話を聞く。
冬場はお客がほとんどない。渓魚が動きだして釣りになるのはここでは4月後半の連休開始の頃。東京方面からの客が多いが、最近は客数は少ない。
Iさんは森林にも詳しい。こんな話を語ってくれた。
昔、持倉の国有林にはすばらしい巨木があり、それをみんな伐ってしまった後、カラマツを植えた。その育林のために(カラマツの周囲の草を刈る)広葉樹のひこばえを切り続け、根を絶やしてしまった。伐採も悪だったが、もしあのとき伐採根をそのままにしてカラマツを植えなければ、いまごろ天然2次林がいい感で復旧していたはずだ。
そして・・・
いまカラマツは使えない(建材としては暴れやすく使い物にならない)ので、放棄されている所がほとんど。渓流魚のエサとなる川虫(カゲロウやカワゲラ、トビケラの幼虫)は森から流れてくる腐葉土をエサ源にしていおり、森の状態が渓流魚の生育に大きな影響を与える。腐葉土をつくる広葉樹が減り、荒廃人工林は腐葉土でなく土砂を川に流すので、結局堰堤などが必要になる。その悪循環で川は悪くなるばかり・・・
と憤慨するのだった。さらにこんなところにまで養魚場に影響が・・・
ダムで川をせき止めると森の栄養が海まで流れない。おかげで利根川河口にある銚子の沿岸でもイワシが穫れなくなってしまった。そのイワシの激減が、実は渓流魚の養殖産業にも打撃を与えている。イワシの単価が高いので人工エサのペレットに骨粉まで使われるようになっている。だから同じエサの量を与えても、育ちが悪い。
「ようらく」はIさんのお父さんの代から養魚を始めており、現在はニジマス、ヤマメ、イワナ、の他にブラウントラウトも育てた経験がある。
生育には、ふ化直後から大きくなるまでの幼魚期間がいちばん難しい。渓流での自然状態では、幼魚はやはり川虫の幼生を食べることが多い。川虫の生育サイクルと渓流魚の生育サイクルは一致しており、幼魚の育つ春には、ちょうど芥子粒ほどの川虫の幼生が皮底にびっしりといてエサになっている。養殖のプールでは幼魚には幼魚用のペレットを与える。成魚用と大きさや成分が違うものが製造販売されている。
ナルホド、渓魚の養殖も奥が深い。
椹森で2軒訪問して話を聞く。今回の2日間は、私たちが前回考えた地域再生プランを具体化できるか? それを考えながら動いてみた。内部の人たちの胎動を感じることができ、嬉しく思った。