集落支援員で神流町に向かう。久しぶりに雪が降った。水分の多い重い雪で、積雪量は少ないものの、木々にはよく張り付いた。
椹森を過ぎると雪量が増えてくる。持倉の集落は霧がかかっているようだ。途中で除雪車に出会う。まだ持倉までは雪が掃かれていないようだが、轍(わだち)があったので走行可能と判断し、先に通らせてもらった。
集落では20cmほどの積雪量だった。道を歩いていたSさんによれば、近年ではまあ降ったほうだ、とのこと。やはり私たちが群馬に越してきたその冬は、ここでも記録的な大雪だったそうで(H集落では65cmだった)、Sさんの家の納屋の屋根がつぶされたそうだ。
集落までの主要道は除雪車が入るので、県道沿いに家を持つ人が多い持倉の人たちは、雪に関しては比較的楽なほうだ。家の周囲だけ簡単に掃けば、後はお天気の日に雪はどんどん融けてしまう。
区長さん宅にお邪魔する。お茶うけに干し柿とコンニャクをごちそうになった。今まで見た中で最も大型の干し柿だった。中はねっとりして、まるで羊羹を食べているような甘さがある。
コンニャクはこちらで自然薯と呼ぶ昔からの野生種の生イモから手作りされたもの。市販のコンニャクとは別物のように香りと歯触りが違う。また味が染みやすいので、出汁と組み合わせが絶品である。
家の中に保存してあるシオジ一枚板の座卓を見せていただく。また、室内の透かし付きの帯戸なども見せていただいた。区長さんは国有林の伐採と販売をやっていたことがある。昔、銘木を加工していろいろ造らせていたようだ。
持倉の原生林にかつてあった広葉樹の中では、値段の第一はまずケヤキ。次いでシオジだそうだ。ケヤキは凍みが入って木目に沿って割れてしまうことがあり、なかなか難しい木だという。また、杢(もく/木目とは別の模様)の入る材は根元に多く、そこは暴れやすいので、区長さん宅にあるシオジのコタツ板は何度かひっくり返して使いながら、ようやく平らに落ち着いたという。
さて、私はこの集落支援員の取材を通して新たな発見をした。群馬県の人はまだこの事実と、それゆえの希少さに気がついていないようである。神流川上流域は中央構造線上にある。中央構造線は関東から九州までほぼ東西に1000Kmも続く国内第一級の大断層で、群馬ではここを通過するのだ。
中央構造線上には神社などの聖地が多く、また山岳集落が多いとも言われている。それは断層地帯なので砕石が多く、それゆえ雨水が浸透しやすく山の中腹なのに湧水があるのと、摂理のある石が出るので石垣が造りやすいという、二つの居住条件を備えているからだろう。また山の中腹は谷の集落よりも冬は意外と暖かい。これは世界共通で、この位置は「逆転層」と呼ばれている。
いわゆる青石(三波石/緑色片岩)や赤石(紅簾片岩)など、縞状構造をもつ結晶片岩はこの中央構造線に沿って産する。群馬県神流川流域はその最北端と位置づけることができる。
東北や日本海側では雪崩の危険があるので、盆地以外に山の集落は存在できない。持倉を「北限の山岳集落」と呼ぶこともできるだろう。