この人工林災害はまだまだ続く


台風の目が通過したのに高松市内はほとんど無傷。アーケード店舗はシャッターを閉め、前に土嚢を積んで閉店中の店が多かった。ふと思い立って、紅茶とパスタの「TABITO」へ入ってみる。ずっと昔、私の高松入りの際、歓迎会が催された店だ。食後のアールグレーがすばらしく美味しかった。

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部屋に戻ってから、パソコンに奥に眠っている過去の日記を調べてみると、ここで紙芝居ライブをやったのはちょうど10年前。その私がまさか、ここ高松に住むことになろうとは・・・。

「このまま林業行政に任せていたら日本の人工林は崩壊する」と活動を始め、鋸谷式間伐をホームページ公開し、紙芝居『むささびタマリン森のおはなし』を全国で公演開始した。あれから10数年が経った。たとえば『鋸谷式新・間伐マニュアル』(全林協2002)は大きな反響を巻き起こし、『図解 これならできる山づくり~人工林再生の新しいやり方』(農文協2003)は現在まで9刷という林業書としては異例の冊数を記録、とある学校の副読本にも採用され、今も売れ続けている。

だが、今回の台風の被害を見ていると、この強度間伐・人工林再生という仕事が日本の山々に成就しているとはとても言い難い。上流に大きな荒廃人工林を抱える河川で大洪水が起き、土砂崩壊で被害を出している。

私は2003年11月の「吉野・熊野・南紀の旅」日記の中で、こう書いた。

遥かなる熊野。寒暖の交錯する魅力溢れる大山塊。そして豊かで美しい南紀の海。ここは本州に残された、数少ない原始の香りする場所である。しかし、そこでさえ蔓延する荒廃した人工林。この気の遠くなるような面積の人工林(しかも急峻な山肌、深い谷)を、これをこれからいったい誰が、どのようにして管理していくというのか? 来年、熊野はおそらく「世界遺産」に登録される。世界の熊野として注目を集めることになるのだ。そのとき、この荒廃した人工林はまちがいなく最大の「お荷物」になる。

ざっと見た感じでは、残された解決法は「巻き枯し」による「伐らない強度間伐」しかないように思える。これが最も速くて確実、かつ危険が少ない方法だからである。温暖多雨の紀伊半島では、巻き枯し後の回復も非常に速いように思われる。これを早やかに実行すれば、治山に優れ、台風にも強い折れない森に変えることができ、「お荷物は」一転して世界遺産の彩りに早変わりする。いやその森が遺産の一翼を担うことだってできるのだ。

残念ながら、今回の和歌山熊野川流域での被害は悲惨である。おそらく助からない人も。ところが「間伐しなくても森は育つ」などと書いたことがある森林ジャーナリストや、いまだ「巻き枯らし間伐」を陰湿に批判し続ける森林学者たちは、山崩れの死者の前にもトボケたままである。

私は何度でも言う。間伐の根本的な考え方を変えない限り、この人工林災害はまだまだ続く、と。線香林は崩れるまで育ち続けるのだから。

TABITO


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