さて、今回「囲炉裏」を新設するのは「永源寺ダム」によって沈むため上部の道上に移築された建物である。ダム竣工が1972年だからおよそ築50年。構造材にベンガラを塗られた地元形式の造りだが、やや新しい「昭和の古民家」といっていいだろう。
室内の造作材は新たな補遺により長押などは柾目のスギが使われ、欄間もあり、床の間なども良い材で丁寧に作られている。前回、予備調査で(10/8)畳を剥がしてみると荒床に合板は使われておらず、スギの板張りだった。
囲炉裏を作るのは玄関を入ってすぐ右隣の庭に面したいちばん明るく風通しもいい6畳部屋である(下写真、赤丸が囲炉裏予定場所)。台所はこの対角線上にあるので、実験的に作るなら台所の隣の小部屋がいいのかもしれないが、依頼主の家田くんは「地域おこし協力隊」で地元との交流があることもあり、客間としても使えるここがいいと思った。
ただし端正な和室であるから、たとえ大家さんから改装の了解を受けているとはいえ、それなりに見栄え良く作る必要がある。本来なら囲炉裏は板の間にしたほうがいいのだが、2日のワークショップでは難しいので、今回はこの畳の間をそのままに造ることにした。
最初にことわっておくと、僕の持論は拙著『囲炉裏と薪火暮らしの本』にも書いた通り、
「囲炉裏の本質は炎」
と思っている。そして炎を使ったとき、
「囲炉裏は地球上で最もローコスト・ローインパクトな暖房装置であり、多彩な調理ができる”炉の王者”」となるのである。
いわゆる現在の囲炉裏は炎ではなく趣味的に「炭」を使ったものが多く、宴会仕様なのか炉灰の部分が狭く、いっぽう炉縁(ろぶち)がテーブル状に広い。そして自在カギが下りていないかもしくは飾りで付けているだけ。それは囲炉裏ではなく「大きな火鉢」なのだが・・・。
僕がこれまで実践し、そして皆に推奨したいのは、あくまでも炎を使った「生活の囲炉裏」である。ただし、炎の囲炉裏は煙が出る。掃除も頻繁に必要でハードルが高い。
とりあえず今回は「炭使いの囲炉裏」とし、家田夫妻が囲炉裏に慣れてきたところで2期工事として炎が使えるような煙抜きを作り、そのとき畳をフローリングに張り替えるとよいと考えている。
家田くんが用意してくれたヒノキの炉縁(ろぶち)を予定場所に置いて、皆でイメージを膨らませたところで自己紹介タイム。その後、1時間ほどのスライド説明と質疑応答を経て工事に取り掛かる。
まずは畳を上げて、荒板を剥がす。ここで食い込んだ釘を抜くために小バールを使うのだが、皆がそのやり方を知らないことにちょっと驚く。この釘抜きの手法は古民家の改修作業には必須の技術である(拙著『山で暮らす 愉しみと基本の技術』4章106ページに図解してあるので参考にしてほしい)。というわけで、女性参加者にも体験してもらうことに。
今回、大工のT君が道具持参で参加してくれ、彼に囲炉裏に必要なサイズに電動ノコギリで荒板を切ってもらう。
囲炉裏の基礎は石と粘土と土で組み上げる。用意した石がちょっと足りなさそうだったので、裏の畑から追加で運ぶ。
粘土は瓦下地の土を再利用。切り藁を混ぜて水を入れ、
よくこねる。フネが小さいのでまんじ君に長靴で踏んでもらった。
基礎の石を積み始める。大きめの石を使い外周を固めていく。積み方はスライドで説明し、配布資料にも図解が載せてあるのだが、
ここは難しくもあり、重要なところなので僕が一人でやることに。
この石を崩れないように、大引と根太の下端スレスレの高さまで積み上げる。そしてすき間を粘土で塞いでいくのである。
粘土は参加者に野球ボールほどの団子にして渡してもらい、下部の大きな石の隙間には叩きつけるようにして埋めていき、角材と石とのすき間は丁寧に押さえ込むように塗りつぶしていく。
なかなか難しい作業だが、上部の粘土の詰めを家田くんにも実践してもらう。
石が少ないので土で全体の底をかさ上げしていく。ここで高さを稼いでおかないと灰が大量に必要になってくる。土は締め固めが効く赤土などがよいが、なかったので畑の黒土を重ねた。
なんとか基礎の形ができた。今日はここまで。
基礎の積み上げの間、大工のT君らに指示して頼んでおいた板材が仕上がってきた。ちょうど丸抜きの工具があったようで、いい出来である。そして、柿渋を持っているというので塗ってもらうことにしたのだが、これがまたなかなかいい!
さて、これは何に使うのか? それは明日のお楽しみに。
(2日目に続く)