スケッチブックと雪の剣山


午後から工務店の新築建築の撮影があり徳島まで出かけるのだが、T君は車修理の連絡待ちで待機したいというので植木の水やりをお願いした。朝食に一汁一菜の普段食を出す。2分づきアマランスを入れた米、自家製ぬか漬け、いりこ出汁の鳴門わかめと豆腐の味噌汁。餞別におかかウメを入れた海苔巻きおにぎりを作り、ぬか漬けの残りを持たせる。

僕が朝飯を作っている間、T君に昔のスケッチブックを見せた。

「そういえばウチに来た泊まり客でスケッチブックまでたどり着いたのは君が最初だな」

と僕は笑いながら言った。僕のアトリエは「大地の再生」の庭、建築の外観、内部に入ると玄関の絵画やオブジェに始まり、和室の床の間の仕様や掛け軸、2階に上がれば囲炉裏暖炉に手作り家具と、見所満載で、しかも僕はギターをやるしオリジナルの紙芝居まで持っているのだ。全部見きって理解しようと思えば1泊2日でも消化しきれない。

T君はスケッチブックの絵、とくに手書き文字を入れたライブ感に関心したようで、旅の間自分でもやってみたいと彩色の道具のことなどを熱心に聞いてきた。

たしかに動画と写真だけでは旅の印象は希薄になってしまうかもしれない。スケッチは対象をよく観察しなければ描けないし、文章を残すというのも大事である。話し言葉と文章はまた違うのである。

ものづくりを目指すならなおのこと有意義だろう。そして彩色はできれば透明水彩がいい。慣れれば色鉛筆よりもはるかに多彩な表現ができ、ウィンザーニュートンの固形水彩などいいものを使えば長年経っても色落ちがしない。

アンシング・ホームは大学時代の後輩が経営しており、僕のアトリエの工事をやってくれた工務店で、丸亀の飯山町の農村地区にある。社長のカミさんの実家が農家で、その納屋を改装したのが事務所なのだ。久しぶりに訪れると外壁がガルバリウム鋼板で新しくなっていた。

釣り好きの社長はインスタをやっているので、僕がアップした画像で軽トラ日本一周君の滞在を知っており、いろいろと訊いてくる(笑)。今日のスケッチブックの話をすると、

「へー、大内さんそんなこともやってたんですか、ワシもそれ見たことないな〜」

と言うのだった。そういえばこのところ僕の外部からの印象は「山暮らしの達人」で「森関係の本を書いている」というのが強くて、絵とかイラストは余技でやっていると思われているようなのだw。

後輩の社長に至ってはお互い同じ工学部の出身で、33年ぶりに四国で再会したわけで、僕のこれまでの軌跡を知らない(一応ざっくりは話してはいるんだけど)。

僕はもともと画家になりたかったのであり、イラストレーターとして自然に寄り添う仕事をやっていくのを目指したのだ。イラストレーターのネーム・デビューは登山雑誌の『山と溪谷』で、その売り込みに使った処女作「クラフト紙シリーズ」はクラフト紙を用いているという時点ですでに自然再生への表明なのである。

今回T君の滞在のおかげで、自分の長い過去の軌跡を話し、自ら振り返ることにもなった。基本的に独学と独力でやってきたわけだが、僕の才能を開花させ影から応援してくれた人はたくさんいて、今でもその方々には感謝しているし(すでに鬼籍に入られた方もいるが)、これからもいい仕事を続けていくことが最大の恩返しだと思っている。

いい仕事をするにはモチベーションが大切で、それを得るには時にはネガティブで心に傷を背負うような事象をかかえてしまうこともある。そして人への思いが最大のモチベーションを生むきっかけとなる。T君にはそんなことも伝えた。

タイ採集旅行のスケッチブックより(2001.7)

今日は冬至だった。yuiさんの誕生日は夏至で、そのせいか夕日が大好きな人だった。今年の夏至は取材で京都の鞍馬山にいた。冬至の今日は雪の剣山を見、吉野川のほとりで撮影だった。


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