浜松から夕刻に帰還し、もう洗濯も間に合わないので途中で衣類を調達して荷物をまとめ、仮眠して翌朝5時半のマリンライナーで岡山へ、新幹線に乗り換えて九州へ。小倉で矢野さんのレンタカーに合流する。
九州は何度も訪れているが行橋(ゆくはし)市の滞在は初めてだった(北九州市に隣接し、海岸沿いの南に位置する)。今回の施工場所、須佐神社(旧今井津祇園社)は、北部九州を代表する祇園社で、創建は鎌倉時代と伝わるかなり規模の大きなお社である。
前回の名古屋会議で下見時の写真を見せてもらっていたが、2018年の西日本豪雨で被害を受け、以来復旧が遅れたままになっている。近代土木で再生すると数億円(!)かかるという見積りが出ているそうだ。
地滑りの歪みで石垣や階段、鳥居の一部が破損したままになっている。
きょうびの神社はどこでもお金がない。寺院のように檀家や戒名制度があるわけでなく、京都の有名神社でさえ所有林を伐ってマンションにするとかで物議をかもしたほどである。
この神社の特徴的なのは須佐神社と大祖大神社の2社が平行して祀られていることで、
拝殿は一続きの建物になっており、
その奥に2つの本殿がある。「大祖大神社」は太古にこの地の天地神霊を祀ったとされ、のち平安時代に妙見神(造化三神)を祀る。造化三神とは天地開闢のときの元始神、天之御中主大神、高皇産霊大神、神皇産霊大神である(この神社が地区の氏神様になっている)。
一方「須佐神社(旧今井津祇園社)」は特定地区の氏神ではなく広く北部九州の守護神である。この地方に疫病が大流行した鎌倉時代に、京都の八坂神社より祇園社を勧請し、その霊験あらたかで北部九州一円に御分社が100社もできたという。
また福岡県の無形文化財である祗園祭があり、現在は曳山1基だけだがかつては曳山が4基、舁き山(かきやま)が2基あった。祭りの期間中に連歌を奉納する連歌奉納の行事は室町時代から現在まで途絶えることなく続けられている。
それにしてもわずか人口7万程度の地方都市になぜこれほどの神社が・・・不思議に思い「ここ行橋はかつて何か産業で栄えたのですか?」と関係者の方に訊いたところ、「貿易です」と意外な答えが帰ってきた。
もともとこの地は今井津と呼ばれ、瀬戸内海に面した天然の良港として栄えたのだった。博多や小倉など玄界灘の港は元寇など外敵の襲来も多く、また当時の船では関門海峡は難所であった。近代土木の港湾ができるまでは、京都・大阪への物資輸送は今井津が中心だったのである。
今井から北西はもとは海で、入り江のようになっており、それを囲む今井、金屋、真菰、元永、沓尾、蓑島などの地域は中世の港町であり、明治期まで小倉藩の商港として発展したのだった。また金屋には中世鋳物職人の集落もあったそうだ(行橋市ホームページ)。
興味深いのは流域の最源流が九州北部の聖山・修験道の山「英彦山(ひこさん)」であることだ。英彦山(標高1,199m)は羽黒山(山形県)・熊野大峰山(奈良県)とともに「日本三大修験山」の一つである。前ホームページによれば、金屋の鋳物集落から英彦山の寺に梵鐘が奉納されたこともあったという。
さて、前置きが長くなった。到着と同時に拝殿で厳かに参拝が行われ、矢野さんの指示で作業に入る。
今回重機はブレーカーではなくバケットで水脈や点穴を掘る。建物周りの地面には空気の詰まった感じがそこかしこに出ている。
杉のご神木周りに点穴を。
矢野さん自ら点穴のしがらみ処理と埋め戻しを実演解説。
周囲を軽く埋めもどす。
その周りに炭。
そしてグランドカバー。チップが良いが、まだ到着していなかったので落ち葉と腐葉土で。現代土木は固めることで崩れに対抗しようとするが、「大地の再生」は気水脈を通すことで崩れを防ぎ土の流出を止める。また、そうすることで植物の根が元気になり細根を出し、大地を守ってくれる。
U字溝を開けて中の泥を掻き出すが、全部は取らないでいい。
側面をブレーカーで壊して地面の水脈とつなげる。点穴やグランドカバーで雨水の浸透を促すだけでなく、表流水の集まりはきちんと下流に流れるように道筋を通してやる。
ただしU字溝にも穴を開けておく。
穴には炭と枝葉を刺しておく。コンクリートで遮断されていた水脈が地中と繋がり、少しの泥を残して澪筋をつけておくことで、U字溝の中にも小さな生態系が息づく。空気が通るとドブ化しなくなる。そして木の根がここにも伸びてくる。
最終的には水脈に炭と枝葉、そして周囲に炭・チップのグランドカバー。一番下の鳥居のある場所からこの拝殿まではかなりの落差地形になっているので、気水脈を回復させれば改善は目をみはるほど早いだろう。
ただしこの神社には城郭のような規模の石垣と階段があり、すでに地面が動き始めているので、浸透と水路による排水のバランスが重要になってくる。すでに大木が倒れたりしているが、ここを現代土木のコンクリートでさらに固めるようなことをすれば、さらに上部の木々が衰退し神域は崩壊するだろう。
鎮守の杜の機能を活かすことが、再生の最重要ポイントである。
(続く)