第2回「大地の再生」プレライセンス講座3日目最終日。上野原山間部の集落は石垣に覆われているが、ほとんどすべてにコンクリートの隙間止めが施されている。もともとの石垣はもちろん隙間のある空積みだった。戦後の高度成長時代のコンクリート全盛期にこれが良しとされてしまったのだろう。水抜きのパイプは設置されているものの、抜けが極端に悪くなってしまったのは確かである。
今日は朝から茶畑の手入れに入る。チャノキは手入れを受けながらもやや背が高くなっている。将来は自然樹形に戻し、風通しのよい新しいスタイルの茶畑にしていきたいという。とりあえず周囲と通路の草刈に入る。
ちょうど開花時期で、花にミツバチが・・・
ハナムグリが来ていた。
これらは食害昆虫ではなく、むしろ受粉してくれる益虫なのであるが、現在の茶畑ではこれらの昆虫をすべて抹殺するばかりかミツバチの激減に多大な影響を与えて世界に名を轟かしたネオニコチノイド系の農薬が、しかも日本では異常な濃度がゆるされて使われている。
イネもお茶の栽培も、人間本位の異常な栽培方法になってしまった。本来はもっと多様な生き物と共存するゆるやかな栽培がずっと続いていたはずである。とくにお茶栽培は過密で風通しが悪い。虫食いが発生するのも当然で、だから農薬が欠かせなくなる。
チャノキにからんだツル植物はある程度残しておくのが印象的だった。自然農でもほとんどツルは取り去ってしまうのではないだろうか。ツル植物にはそこにいる意味と機能がある。多様性を残すことにもなる。
皆がチャノキをいっせいに揺らし始めたことで小さな虫たちが舞い上がり、それを目当てに赤とんぼの群れが上空を群舞している。こんな茶畑の自然農が全国に増えていったらどんなに愉快だろう。
午前中のお茶時間。ここで穫れた茶葉を使った紅茶をいただく。農薬茶は環境を汚染するだけでなく、人にも直接飲料になるだけに危険である。情報が行き渡れば無農薬茶の販路も広がり、自然農による経済も生まれてくる。
となりの放棄畑に矢野さんの重機が入る。屋久島の放棄田んぼでやったと同じように、ブレーカーの先でスパゲティをぐるぐる巻きにするように、雑草をからめ取っていく。これを矢野さんは「重機の竜巻払い」と名付けたようだ。
すでに水脈や点穴を入れておくと、雑草の伸びはおさまり、根も深く固くならない。こうしてぐるぐる巻きにして放置して雑草を枯らすと、次の農作業の再開が簡単になる。放棄地の管理手法としてきわめて合理的な方法といえるだろう。
チャノキに隙間を開ける作業に入る。
根元は地際から細かく枝分かれしており、手で折れる枯れ枝もけっこうある。過密な人工林のように枯れ上がっているのだ。根元から、本数にして2割程度を伐って抜いていく。
皆がいっせいにその作業に入り、放棄地でも重機の竜巻払いが続けられる。
いったん古民家宿舎に戻って昼食。今日も浜田屋食堂。こんど名物の天丼をお店に食べに行ってみたい🎵
午後は、茶畑の近くにある畑地の草刈り。ここもまたひと夏放置していたのだが、水脈と点穴を入れているので草は柔らかい。すぐに畝の形が浮かび上がった。
埋まってしまった畝溝の水脈を掘り起こしてメンテする作業を、矢野さんが手本を見せる。
そしてすぐ試験に入る。斜面では下から上に、溝に足を入れて掘る。溝をただ真っ直ぐ掘削するのではなく、土から教えられる柔らかいところを掘っていく(多少ジグザグになっていい)。掘削して枝が出て来たら、今度は三つグワの先で押し付けて安定させる。ただ掘ればいいのではない。掘削、開き、押し・・・という複雑な作業を同時にこなしているのである。「難しいことはないよ、イノシシに習えばいいだけ」
竜巻払いの敷地では、女性陣が重機練習に入る。試験は重機のアームで円を描くというもの。左と右のレバーを同時に動かさないと円にならない(四角になる)ので初めての運転では難易度が高い。こちらもそれぞれ矢野さんの審査で点数がつけられた。
もうひとつ、今日は果樹園に入って剪定をする予定だった。しかし時間がかなり押してきた。途中、昨日の田んぼを観察すると、稲穂がすべてピンと直立していて驚いた。
さらに畔脇をイノシシが大行進した跡があるではないか。ここは電柵を設置していないのだが、イノシシはイネにはまったく手をつけていない。しかし、奥にある品種の違うイネには侵入跡が多数ある(赤線囲いのところ)。この不思議さは矢野さんにもまったく解明できず、ただ驚きと笑いがこみ上げるだけである。
県道を渡って侵入した足跡が多数ある。
果樹園では大粒のクリが実って落下していたが、ほとんどイノシシに食べられていた。残り時間で資材の移動と風の草刈りで風通しを入れていく。
この最後の結作業の連携は素晴らしかった。短時間で驚くほど作業が進んだ。
重機による水脈の掘り起こし、刈り払い機も入ってほぼいい感じに見通しがよくなる。
事務所に戻って反省会。風を通していく・・・ということを徹底して学んだ3日間ではないだろうか。道具も住宅も、里山も奥山も同じ。今日できるぎりぎりのエネルギーをかける。自分と周囲の風通しバランスを考える、不具合の取り残しがないか見る、後続がその刈り取りをする。気が合って風通しがつながる。部分と全体をつなぐ、人の気と行動をつなぐ。「結」作業のすばらしさを実感させられた3日間でもあった。
夜のとばりが降りたころ、ふとキンモクセイの香りが流れてきた。今年初めてのこの匂いだった。それが何かメッセージのようにも感じられた。