貴船、鞍馬の森は今・・・京都の水源林大崩壊


いいペースで明け方京都に着く。まだ時間があるので高速を降り、鞍馬方面から山越えで琵琶湖に降りるルートをとる。東寺の五重の塔を見ながら左折、堀川通りを行けば、yuiさんとの旅で定宿だった二条城前の京都国際ホテル(取り壊し中)、曾我蕭白の菩提寺「興正寺」、日蓮宗の本山「本法寺」(私の父の墓は水戸市の本法寺別院にある)と同じ通り沿いで、鞍馬はさらにこのラインの延長上にある。上賀茂神社の鳥居をみて鴨川を渡り、徐々に森の中へ入っていく。

貴船が近づくと線香林のスギが現れたが、その雰囲気が尋常ではない。さらに進んでいくと、貴船口の辺りから激しい風倒木の痕が見える。

電車に影響が出ないように整理してあるが、上部はまだ放置されたままだ。

その惨状は道を北上するにつれ、ずっと続いているのだった。

貴船、鞍馬といえば、京都の奥座敷で鮎や山椒が名物であり、いわば京都の水源林ではないか。

それが・・・。これが全国的な大大的なニュースにならないのはおかしい。祇園祭や送り火なんぞやっている場合ではない!!!

集材のための道が見えるが、法面の土が崩れ、8月だというのに下草も生えず土が露出しているところが多い。磨き丸太を採るための北山杉は、密植で育てるため地面が痩せてしまう。林床に雑木はほとんど生えておらず、草本もシダ類のような特殊な草だけになっている。

風雪害を受けて曲がったり折れたりした木は、縦に長い割れが入るので木材として使い物にならない。そこで薪やチップに利用するのだ。しかし、こんな短い玉切り集積の現場は初めて見た。

花脊から国道477に入る。折れた木は少なくなったが、超過密な線香林ばかりだ。拙著『「植えない」森づくり』でも指摘したが、北山杉の施業地を放置すればたちまち風雪害にやられるような、脆弱な森になってしまう。

林業的に行き詰まった時点で速やかに「巻き枯らし」間伐をして、混交林化するべきだったのだ。下草の生えない森は豪雨のとき表土が流れる。表土は何百何千年もかけて森が育てた、養分と微生物の宝庫である。下草のかわりに捨てられたゴミが、暗い林内に光っている。

これじゃまるで、タマリン紙芝居のワンシーンそのものじゃないか!

紙芝居『むささびタマリン森のおはなし』by Masanobu Ohuchi

根倒れしている木がある。かなり太い木だが、根が浅く小さいため、曲がりや折れが入る前に根ごと倒れてしまうのだ。

やはり水源地なのである。簡易浄水場がある。

京都が大好きで、高松に越してから何度も京都通いをしていた私にとって、今朝の森の光景は胸にこたえた、そして怒りが込み上げてきた。

6:45、琵琶湖大橋を渡る。

その後、新聞記事を見つけた。昨年9月の台風による被害だったのだ。

山覆う倒木、自然災害のリスクも 台風21号、山間部に爪痕(『京都新聞』)

9月4日に関西を通過した台風21号で、京都市内の山間部では集落孤立やライフライン寸断が相次ぎ、平成最悪ともいえる甚大な被害を受けた。発災から1カ月が過ぎた北区の北山3学区(小野郷、雲ケ畑、中川)では、おびただしい数の倒木が今なお山を覆い尽くす。林業の衰退で山林管理が難しくなる中、北山杉の里ではいま、財産であるはずの木々による自然災害のリスクが深刻化している。

北山杉の生産地である3学区では、木材価格の下落に伴い、搬出時期を過ぎた杉が山に放置されるケースが増加。山の手入れが行き届かないため、下草が生えずに土がむき出しの斜面も増え、土砂崩れのリスクが増大しているという。(京都新聞2018.10.14)

やはり林業と自然を根本から考え直さねばならない時期に来ている。今後も台風のたびに住人は恐怖にさらされる。そして、このままでは京都に大水害が起きるかもしれない。

※追記:後日、図書館で昨年の新聞バックナンバーを調べて、この北山杉・京都の水源林大崩壊が大ニュースにならない理由が解った。9月4日、このときの台風21号は関西を横断し、関西空港に大被害をもたらした。マスコミはこぞってここにフォーカスした。そしてその直後(9月6日の明け方)、北海道胆振東部地震が起きたのである。おそらく、関空ネタのあとに京都の原稿が各社で上がっていたのだが、この大地震のビッグニュースの前に没にされてしまったのではあるまいか。


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