桐生の火と水


先日、実家の水戸へ行った帰り、栃木の佐野から山越えで梅田へ向かうルートをとった。実は、この道沿いで伐採と集材をしていた場所があって、そこの残材を薪に貰おう、と目をつけていたのだ。いま、スギ・ヒノキ人工林の伐採跡地では、オイシイところだけを持って行くだけで、後はすべてゴミとして山に捨てていく。だから、驚くほど大量の残材が、斜面にごった返している。ちょいと道ばたに車を止めて、ちょいと道に近い場所の斜面の木を拾うだけで、およそ一ヶ月分の薪が入手できる。これを、誰も使わないのだ。もったいないことだし、次の植え付け時には地ごしらえ、という作業があるのだが、そのときじゃまでしょうがないだろう。

さて。本日、大村しげさんの『京都 火と水と』(冬樹社/1984)を読了。私は故、大村しげさんのファンで、拙著『山で暮らす 愉しみと基本の技術』にも何編か紹介させていただいたが、これも、いい本だった。前橋の県立図書館で閉架図書として眠っていた本である。まったく、なぜこんな名著が・・・。ぜひ文庫化してほしいと思う。

京都の火と水にまつわるエッセイだが、その文の中に暮らしの息づかいが込められている。

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シブい装丁だが、見返しにはカラー写真が使われている。前は「鞍馬の火祭り」。

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後ろは「上賀茂神社のならの小川」。

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しげさんの父は昔、魚屋で、毎日何杯ものトロ箱(魚を入れる木箱/発泡スチロールがない昔はみな木箱だった)を洗っては、おくどさん(カマド)にくべやすい寸法に切って割っておいたそうである。家の地下室にはその薪がぎっしりと詰まっていて「おまえは一生焚き物だけは、不自由せんだろう」と言っていたそうである。

また読みたい本がでてきたので、みどり市の図書館へ行く。

帰りに桐生の町中散策。

八木節祭りでにぎわった目抜き通りも廃墟のような静けさ(笑)。まるでジョルジュ・デ・キリコの世界だ。

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脇道に入り、以前行ったことのある「秀峰」で食事。気になっていたカレーを食べてみた。カレーセット800円。盛りは普通だけど、気合いが入っていて美味い。全体に品があるのだ。老夫婦2人でやっているレトロ食堂だが、ただレトロなだけではない。接客も実に丁寧だ。

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駐車場まで戻る途中、またぶらぶらと町中探索でみつけたレトロ食堂。ううむ、ここもかなり気になる。「鳥亀(とりかめ)」と読むのだろうか。近々攻めねばなるまい。

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帰路、事務所を通り越してダムの奧へと探索してみた。桐生川の源流域は以外にも豊かな水量と渓相で、ちょっと嬉しくなった。

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梅田は桐生の奧座敷として、昔は焚き物(薪)や炭をかなり出荷していたのではないだろうか。ちょうど、京都の町中と大原との関係にも似ている。

その薪をいま暮らしの中で使う人はほとんどいない。使おうと思っても、住宅地の中で薪の火を使うということは、それはそれで様々な軋轢を生み、続けるに強い意思を必要とする。しかし、私たちは今日も庭でチビカマを焚いて朝食をとった。そして井戸水を飲んだ。

京都では元旦の明け方に井戸の水を汲む。これを「若水」という。それを一番に神棚に供え、そしてお雑煮に炊く。そしてその最初のカマドの火は、祇園さん(八坂神社)のおけら詣りでもらう火を縄に受けて、消さないように火縄をぐるぐる回して、家まで持って帰るのだそうだ。

『京都 火と水と』の最後は、このようにくくられている。

「若水に明けて、おけら火で暮れるひととせ。いや、お灯明で迎えて、水の恩で送るこのひととせ。年の始めと終わりのけじめを火と水できっちりとつけて、それが京の暮らしやろうか。いいえ、近ごろはだんだんと暮らしぶりも変わってきたので、一概に京の暮らしとは言い難い。けれど、京で生まれ育ったわたしの、京にこだわり続けている暮らしというのなら、それは決してうそではない。そしてまだ、こういう暮らしをなさっているおうちも、知っている。
火を敬い、水に謝して、日(にち)の暮らしをだいじに歳月を送り、また迎える。水の生命(いのち)の常(とこしえ)に炎の綾を織りなして、暮らし模様が浮き上がる。お灯明のひとすじの炎があないに美しいのは、そこに暮らしの支えがあるからやろうか。この美しさを、私は守らなならん、と思う」

今宵は、京の「大文字の送り火」の日である。かくも真摯なしげさんの想いを、ここ桐生から偲ぼうと思う。


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