雨が降ってきた。一度集会所に集まって矢野さん組はUさん宅に移動。奈良在住の写真家Kさんも合流する。
雨の中の作業や取材は大変だが、水の移動や泥の出方が解ってまた興味深い。
道路ぎわの水路は透明な水が流れている。被災当初はすべてが泥水だらけだったはずで、雨を重ねるとともに流されるべきものは流れ、そして大地の再生の水脈整備手法がそれを後押しして、環境は急速に回復した。泥アクが消えると空気も清らかになり風も流れ始める。植物もそれに反応し、さらに植物そのものがその通気通水機能を応援するようになる。客観的感覚的には、たたずんでいて気持ちのいい空間になるのだ。
チップをまいておいた中庭とコンクリート舗装の接点に、水切りと抵抗柵を加える。
水切りは移植ゴテで。
抵抗柵は先ほどお寺の境内でやったと同じ方式で。
コンクリート舗装の上は雨水がすべるように流速を速め、中庭の水を引っ張り過ぎてしまう。そこで変化点に抵抗柵を置く。中庭にもほどよく雨水が浸透し、周囲の植え込みを育てることも大切なのだ。
ここは車が通るのでセパが飛び出さないように打ち込みたいのだが石に当たるのか途中から入らなくなる所が出る。
そのときは横に叩きつぶしてもう一本斜めから打つ。
全部打ち終えたら土をかける。
このときも水の流れをイメージしながら三つグワを動かす。
有機物のグランドカバーをかけ炭をまく。これで雨が上がれば適度に固まってくれる。また、この上にセメントを粉のまままいておくとより早く固まり、強固になる。
コンクリート道の泥の上にも刈り草をまいて炭を振る。
泥を掻いてコンクリート面をきれいに出してしまうというのが見栄えのいい方法だが、それでは施工時に泥アクが一気に下流に流れ出てしまう。それにまだ上流から泥水が降りてくるので凹地にすぐに泥だまりができる。
有機物と炭を利用すれば乾いても泥ぼこりが出ない。そして泥水を浄化してくれる。空気と水が通ると不思議とアクが出ない。
矢野さんが建物の裏側の通路を掘り始める。
石積みで壁が作られた井戸の穴があった。
Kさんが写真を撮りにやってくる。
矢野さんの水切り、ビフォー。
アフター。
水が流れると上部の空気も流れる。すると周囲の泥も乾く。泥の壁からも大気圧によって空気と水が押し出される。カマボコ型はその空気の出し入れと流体の滑りに最も適した形だ。たったこれだけの小さな秩序だが、これがやがて大きな働きをする。
さらに奥の建物の水切り。
矢野さんの三つグワの動きは実に的確で滑らかだ。
家の裏側のU字溝が坂道へと繋がる斜面の変換点。昨日矢野さんに指摘されたこの場所に抵抗柵を2本。
アフター。土と有機物のグランドカバーで不明になるが、これが後からじわじわ効いてくる。
後半は私も作業に参加したのだが、このU字溝の泥は掘り出すべきではなかった、と矢野さんに指摘される。これでは水が走り過ぎてしまうそうだ。すでに泥アクは出切って、自然の砂だまりがいい凹凸を作っていたので、そのままで良かった。・・・というわけで何カ所かに石が投げ込まれる(泣)。
砂だまりに水が常に浸透を繰り返しながら流れる状態は、浄水場の「緩速ろ過」にも似ている。砂の表面にはすでに微生物膜ができていたのかもしれない。
>緩速ろ過
コンクリートの歩道には、歩行やトラクターの移動を妨げない程度の有機物・小石を置き、雨水の流速を抑え、左右に水を分散させる。曖昧で地味な装置(有機的構造物)だが、泥漉しの機能も持ち、上流の側の走りも抑えてくれ、周囲の植物は細根を発達させ保水力を高める。
家と植物は一緒(同体)・・・。水脈を整え、グランドカバーと炭をまくことで、植物も家も生き生きと蘇(よみがえ)る。雨の多い日本の山村では屋敷に植え込みを作り、それと共存することで暮らしが安全・快適になる。
そして裸地には有機物と石・土、炭で脈を作り、全体が等速なリズムになるようにに水を流す。凹凸があれば凹地には泥アクが停滞し、草が生えなくなる。切土・盛土で土を移動し(凸部を削って凹部に運ぶ)、水みちを切って停滞を解放する。
地球上の他の温帯地域に比べて日本は雨が格段に多い。とくに山間部では豪雨に見舞われることも多く、いちどきの台風や集中豪雨の総雨量が、ヨーロッパの年間降水量を超えることもあるほどだ。しかし日本では夏の日照の長い時期に雨が多いという点で、彼の地に比べ植物の生育には大変有利である。
取材記1-1にも書いたが、植物は水脈の構造物に必要な「土留め・通気通水・泥漉し」という3つの機能を備えている。だから昔の人たちは屋敷周りに必ず種々の樹木を植えた。とくに日本においては、植物との共存は不可欠な命題なのである。
しかし、水は走らせ過ぎない。走れば地形を崩し、泥アクを運んでしまうからだ。また、ゆっくり流れることで地中に水が浸透する。周囲の植物のために、浸透させることもまた大切なのだ。
雨水の浸透はまた地下水も育む。有機物のカバーがあることで地表に微生物層ができ、物理的な泥漉しだけでなく、生物化学的な浄化も促される。たとえば病原菌などが微生物膜を通過することで消化されてしまう。
だから無機的なコンクリートで水脈を固めてしまうことが(たしかに手入れは楽だとしても)いかに通気・通水のダメージだけでなく環境を活かすという点で日本の気候風土に合っていないか、そして昔の石積みがいかに優れたものかが理解できる。
会館に戻ってまたまた美味しく豪華な昼食を頂き(他の方の差し入れもあったようです、ごちそうさまでした〜!)、次のミッション放置棚田の整備へ。
(続く)