大地の再生講座(広島見立て編)/崖の樹木診断


今回の西日本豪雨における広島と九州の被災地を見に行くことになった。今回、車道に難儀しそうなので新幹線で行くことにした。東広島駅で矢野さんらと合流し、まずは広島県三次市へ。ここはそれほど被害は出ていないが、矢野さんは敷地の見立てをお願いされていた。

崖の上の樹木が倒れそうで危ないので、伐ったほうがいいかどうか診断してほしい・・・接近する古民家に住むNさんの依頼であった。

矢野さんが来るという話を聞きつけて、県内外から人々が集まっていた。それぞれが自己紹介で今回の被災との関係を話していく。中には家と敷地がに被害に遭われた方もいる。被害がなくとも古民家で田舎暮らし・山暮らしをしている人にとって、敷地周りをどのように改善すればいいのか? は差し迫ったテーマである。個々の質問も矢野さんに飛んでくる。

東広島から三次まではかなりの距離があり、途中崖崩れで迂回しながらというコースで到着が遅れ、自己紹介が終わるとお昼時間となった。見立ての依頼主Nさんの古民家は茅葺にトタンを被せた屋根だが、すぐ隣の敷地には石州瓦をのせた立派な古民家が建っており、そこが昼食の場所だった。ここに住むFさんもIターンである。

時間をかけて丁寧に改装された室内。薪ストーブがよく似合っていた。手作りのランチをごちそうになる。

家の前には、土地や家屋の購入動機のひとつになったであろう聖山風貌の山がそびえている。

土手を守るように大きなケヤキの木が2本。

そこからNさんの敷地にゆるやかに続く斜面と崖。

午後の指導はまずコンクリートの枡を開けて、このコンクリートの壁が地中の水と空気の流れを遮っていること、そしてそこに繋がっている配管の埋め戻しには砕石が使われており、その重量が大地を圧迫していることが説明される。

いつものように矢野さんはブレーカーで枡に穴を開けることを提案し、砕石については本当はもっと軽い有機物を用いた埋め戻していいのであり、そんな土木工事の仕様書ができなければならない・・・と力説した。

その後、斜面の下部に溝を掘る。草刈りも同時に。

「大地の再生講座」の項で何度も書いているが、地形の変化点に土圧がかかり、そこがどうしても詰まりやすい。そこに溝と点穴を掘るだけで、停滞していた空気と水が動き出し、それにともない植物が元気になる。

屋敷周り、この家は雨樋がないので砂利は水はね防止には役立っているし、下には集水管が入って枡へと続いているが上部にも溝を掘る。

崖きわには岩盤もあってツルハシで砕く所も。どうしても硬い岩の場合はわずかな水の筋をつけるだけでもいいそうだ。

溝のコーナーには点穴。

ブレーカーで枡に穴を開け始める。

矢野さんは崖の木に登って診断を始める。その木を伐るべきか、伐るなら登って揺らしてみるのが一番わかりやすいそうだ。最もよくないのが根元から伐ることで、木は主根が枯れるほどのダメージを受ける。伐るならその木の重心よりも上、どこで伐ってやれば地形を支えてくれるかを考える。それも登って揺らしてみれば解る。

結局、十分に根の張りがあるので伐るのは見送られた。屋根に届きそうなバランスの悪い枝を数本落として終了。枝も揺らぎの変わり目で伐るのがよいそうだ。やがてそこから無理のない枝が出る。そして、それに見合うように根を出す。風はそのようなところで枝を折っている。

植物の根も地中でスパイラル状に成長してそれぞれがバランスをとっている。造園業で多数の経験をされている矢野さんに言わせると、主根を1本切っただけで、揺れ方がぜんぜんちがってくるという。

1本の風通しと周りの木とのバランスを見るのも大事。全体の姿を見る。姿は本質を表している。ただし私たちがよく目にしているのは道路沿いの山の木々だから、その姿は疲弊して本来の樹形ではない場合が多い。経験を重ねて目を養う必要がある。

ともあれ木を伐るより地形に手を入れるのが先。大地の再生の3つの大きな要素「大地・生物・気象」のうち生物の改善を一番にしない。地形に手を入れることで植物が息づいてくる。崖の変化点が詰まっていると上の木も根が張れない。

また「樹種によって伐採する・しないを決めるということはないのか?」という質問も出たが、「根が浅いといわれる樹種であっても、周りの環境に合わせて進化していくので問題はない」というのが矢野さんの答えだった。

落ちそうな石も木杭で止めておくと、やがて石に根が巻いて地形を支えてくれる。植物の根と石のセットで地形が安定する。石を取る→穴が崩れ始める→コンクリートで塞ぐ・・・という負の連鎖にしない、ということだ。

裏にはスギ・ヒノキの人工林があり、かなりスカスカに間伐した跡があった。以前の森林組合では考えられないほどの伐り方である。数年前から補助金制度が変わり、伐り捨て間伐でなく出材が必要になったからであろう。このような強度の間伐を早くから行っていれば九州豪雨の被害もいくぶんか防げたのではないだろうか。

伐採跡の年輪からも間伐前はそうとう密な、暗い人工林地であったことが伺える。そのような荒廃人工林を家の裏山で放置され、その山主が不在村で特定できない、ということが全国でたくさん起きている。豪雨被害が続発してる今、これも大きな心配事である。

崖から溝掘りを俯瞰してみる。

溝に入れる有機資材を整え、入れていく。最初は炭、

そして竹の幹。竹の幹は今の時期に伐った青竹では水分が多く虫も入りやすいので、寒の時期に伐っておいたものがよい。

枡の穴開け、施工後。

先ほど矢野さんが切り落とした広葉樹(カシ)の枝葉を被せるように挿していく。

砕石の溝の埋め戻しを矢野さんが指導する。

まず有機資材を足で踏んで、飛び出してくるようなものは長すぎるので切る。ただしここの資材は短すぎても、空気や水の流れのガイドとしての役割が弱まるのでほどほどに。

左右を少しずつ埋め戻すのだが、その際、三つグワを溝と平行に掻いて自然に石が落ちるようにする。

反対側も同じ。

すると先に大きめの石が転がって入り、その隙間を小さめの石が埋めて安定する。

施工後は、知らない人が見たら何をやったのかさっぱりワカラナイ、というのが玉にキズなのだが(笑)。

最後に施主さんからの挨拶。人がたくさん集まった分、作業がはかどって喜ばれたようだ。また、ご主人(今日は仕事で不在だった)は僕の本の大ファンだそうで、サインを頼まれてしまった。

次の現場に出発する前に、僕の本を参考にご主人が手作りしたという囲炉裏に座らせていただいた。炭ではなくここで炎を立てているという本格囲炉裏です♬

落ち着いたら囲炉裏と薪火のワークショップでもやりましょう・・・と約束して三次を後にした。


「大地の再生講座(広島見立て編)/崖の樹木診断」への2件のフィードバック

  1. 先日はありがとうございました。その場に居れなかった主人も大内さんにお会いしたこと、大内さんと囲炉裏の話しをしたことを話すととてもうらやましがっておりました。先日主人はインパクトドライバーを購入し、今日にも大内さんの本が届く予定です^^囲炉裏を囲んでの再会を夢見ております。ありがとうございました。

    1. コメントありがとう。あそこは、とてもいい場所でした。また行って、囲炉裏の炎を見たいです。囲炉裏会、やりましょう♬ 『現代農業』の連載も始まりましたので、こちらも頑張ります。ご主人様によろしく。

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