土木による空間創造/ゆいま〜る @室生 鎌倉山農園(3)


鎌倉山農園の母屋は石垣の上に作られている。あらためて眺めてみると、かなり高さがあり、しかも精巧である。いま、このような自然石の石積みは、全国どの地区でも技術を伝承する世代が消滅しつつある。もし崩れて公共的な工事になった場合、100%コンクリートの擁壁工事にされてしまう。

しかし、矢野さんの理論によれば、コンクリート構造物は水も空気も遮断して大地の機能を弱らせ、植物を衰退させるのだから、やはり空気と水を通す昔の石垣がいいのである。

一般の参加者が集まる前に、オーナーのUさんとスタッフ全員で現場を回り、今日の作業を確認し合う。

天気は上々である。予定を延長して明日まで全3日間の作業になるが、私は今日までで帰宅するつもり。

今日から新たに参加した人だけ自己紹介。遠く千葉県からの参加者も来ていた。

やはり気になるのはここの仕上がり。下段はUさんが「田んぼと畑にしたい」とおっしゃっている。農家民宿となれば、この位置はお客さんを案内する庭のような存在になる。つまり宿の顔になるだろう。

上段の陥没跡を見ると石がごろごろ入り込んでいる土質のようだ。その間を水脈が通っている。大雨のときその土が抜けて、崩壊や陥没が起きたのだ。一番に考えられるのは、きちんと石垣を積み直すことだが、彼らにはまだその技術がないし時間も限られている。

実は昨日の最後の頃、重機を動かしていたMさんが石積みの要領を聞きたがっていたので2人でちょっと1〜2段積んでみたのだ。

一般に造園屋さんはかっちりとした石垣を積む仕事はしない。それはその道のプロの領分で、たとえばお屋敷などの石垣は「穴太衆」などに発注される。しかし、崩れた石が目の前にあり、それはうまく組めば非常に強固な素材なのであるから、使わない手はないのである。

裏には陥没穴があり、次回の大雨があれば表流水が流れてくるような水みちもできている。スタッフは簡単な石積みの中にコルゲート管を2本配して、まず通水機能を強化させた。

次いでツツジの植栽を2株、左右に配置。これは景観として花も咲くが、根が石垣を包んで守ってくれる。動きそうな石もあるが、あえて取らないで杭打ちで固定した。このような石も、植栽が発達すれば安定してくるはずである。

私も石の位置や角度の指示を出し、積み石や隙間に入る石、裏込め石を運ぶ手伝いをする。

上の段の土が露出している陥没壁は、竹を柵状に打ち込んで、

竹の枝葉を中に差し込んで土をカバーし土留めとする。

いい感じに仕上がった。ここは石垣を積むよりこのほうが軽快でよい。上の敷地はまだ使い道が決められていないのだから。

裏込め石の上には竹の枝葉を剪定ばさみでカットしたものを敷き詰める。そして土をかける。有機素材のフィルターである。どうしようもなく無用の長物であった竹の枝葉が、ここでは非常に重要な素材となる。土はカマボコ状に盛り、最後に雑草の植栽を置く。上部のここはツツジではなく草がいい。そのほうが前面の2株のツツジと奥の竹土留めの存在が際立つ。

その上の陥没穴の土や石を取り出して、下側の構築に利用する。

写真では解りにくいが、矢印の位置に水みちがあり、丸の部分に点穴を作っている。点穴の壁は石を積んで補強してある。

点穴に割り竹を放射状に置く。

さらに奥の陥没穴にはヒノキ杭を打ち、

さらに竹を配置する。

点穴と水みちに広葉樹の枝葉を挿していく。まるで現代美術のような様相を呈してきた。

仕上げに竹チップのグランドカバー。

そして炭。

完成間近、思わず「やったなぁ、矢野チームらしい新しいスタイルを創造したね!」という言葉が私の口を突いて出る。

(続く)


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