大地の再生講座@三重県熊野市「金山パイロットファーム」にて。温州みかんの栽培農園36ヘクタール。周囲の山を切り開いて農園を作ったのは50年前、34~6年前頃に2次造成をしたそうだ。U字溝の古びた具合からも歴史が伺える。四国のミカン畑に比べれば緩やかな緩斜面、かつ広大である。秋の長雨で糖度が上がらないので、マルチをして自動潅水している(液肥も入れている)。ここのみならず周囲の農園の木が枯れてきている。また、ウサギの食害が多い。
講座は2回目で、前回2017年7月には県内外から80人余り
今回の参加者は三重県の関係者が多かったが、自然農でみかん園をやっている方々も来ていた。収量がかんばしくなかったり、やはり木が枯れ始めている、という体験談が話された。
集合して、まず矢野さんが口火をきる。
「36ヘクタールのみかん畑がだんだん弱っている。機械的に道と水路を造ったことで、水脈がその開発とともに痛んできた。人のハードな土地利用が、どこで問題を起こしているのか探っていき、それを羅針盤にして大地、生物、気象という3つの環境をつないでいく」
「第一ステップは水脈の痛んでいる所を繋ぐこと。水脈整備ができれば大地の機能につながる。ただし土壌環境だけではダメで、大地の機能が回復しても動植物が連動しなければうまくいかない」
「完成したとしても、大事にケア、メンテしていく気づかいが必要。環境はみかん園だけの問題ではなく、この農地環境がうまく繋がれば、上流の奥山や水脈の下流まで連動していく」
「自然はミクロもマクロも相似形。小さな部分が見えれば大きな部分も見えてくる」
前回の施工現場を視察しながら矢野さんが手を入れる。周囲の農道やみかん畑の管理作業道に「通気浸透水脈」としてコルゲート管や有機物を入れたのだが、昨年秋に600㎜という雨が降り、水脈溝や点穴が埋まっている箇所が多かった。
農道ではわだちの凹みに雨が流れ、それが侵食されていた。しかし、前回7月に来た時は農道が硬く乾燥していたが、そのときよりだいぶ柔らかくなっているそうだ。そして、道の石に泥が付いたものが多かったが、今回はそれがなかった。
埋まった水切りを三つグワで掘り直す。まず手作業で学ぶ。それを機械化する。小さな溝にはパイプは入れないけれど、木の枝葉などの有機物を入れておく。
わだちの凹みで雨が流れそれが侵食されていた。そこは周囲の高い土石を掻いて穴を埋め、
木や竹の枝葉など有機物を上に敷き、軽く土をかけておく。
凹みを埋めれば雨で侵食されず、泥水が出なくなる。また、有機物のカバーは上から泥水が来た場合のフィルターの役目もする。炭があればさらによく、これらの有機物と炭が雨によって上にかけた土をかぶり、土に噛んで一体化することで物理的・有機的効果が高まる。
農道は雨で水がたまらないよう逃がすのも大事だが、同時に水が浸透することも大切。こまめに補修を繰り返していると、やがて自然が応援してくれるようになる。草が生えてその根が土の流出を防ぎ、法面の木が農道側に根を伸ばして強固にしてくれる。また、水はけも良くなる。
畑間の作業道にパイプや点穴を作って空気を抜いてやると、水脈が繋がり、上斜面(畑)のみかんの根を変えていく。細根が出ると幹の表情がよくなり、脂の感じや葉の色つやも変わってくる。プラスの連鎖が起こる。
作業開始、矢野さんは重機で前回の埋まったコルゲート管の溝を掘り直す。
次いで点穴を掘り始める。前回とぜんぜん違って、軽い力で掘れるそうだ。
大地の再生チームのメンバーは炭の準備。今回はスギ・ヒノキの大きめの炭のため重機を使って砕く作業。
参加者は用意された竹をさばきにかかる。
枝を払い、幹を水脈や点穴に使うサイズ(35~45㎝)に切り分ける。
前回、農道を横断する形で設置された直径100㎜のコルゲート管。
両端は点穴になって解放されていたはずだが埋まってしまっている。ここを手で塞いでしまうと地中の水は抜けなくなる。まず空気が動くことで水も動くのだ。
もう一方も点穴が埋まっていた。
もういちど掘り返して、
新しい竹を追加していく。
天穴はすり鉢状に開け、そこに放射状に竹を挿していく。水流の出口であり方向の変化点でもあるのでここでいったん流速が弱まる(泥が沈殿する)。横から縦への水流の変化が起きて渦ができ攪拌される。水がないときも、点穴にはタテ方向に空気の流通がおきる(気圧の変化によって土中の空気と繋がる)。
その上に「泥濾し」として細い竹枝・葉をかぶせていく。
点穴から先は素掘りの溝で谷側の法面に放流されるという末端処理。そこにまず炭を入れ、
竹を入れて
上に竹の枝葉を刺すようにかぶせていく(末を下流側に向ける)。そして枝葉を抑えるように小石や土をかぶせるのだが、中央部は開けておき覆い過ぎないようにする。
みかん園は36ヘクタールと広大なものだが、今回の施行範囲は赤で囲んだところ。まだ実験段階ということで、上流側の角を施行地としている。
みかんの木は5本植えが一区画の幅になっており、今回の場所は等高線上に作業道がある。
これに対して矢野さんの処方は下図のようなものである。面と面が違う角度でぶつかる「斜面変換点」に圧がかかって空気と水が停滞するが、今日のフィールドではは作業道の山側がそれに当たる。そこに溝を掘りコルゲート管を入れていく。奈良の講座(4月17日)で見た通り、土中の水と空気の通りの悪いと嫌気的なり、有機物が分解されるとき有機ガスが発生し植物の根を痛めるからである。
そして作業道の谷側の変化点には点穴を1〜1.5m間隔で穿っていく。点穴で空気の出入り口を作ることで、斜面下のコルゲート管への通水が良くなり、その結果みかんの根が細根を発達させる。実際、点穴を作った後で、下の溝を掘り始めたとき、みかんの木と木の間の低い断面の切り口から水が滲み出してきた。矢野さんに聞いてみると、上の点穴がなければ水は出てこないだろう、と。みかんの根のネットワークが、土中の水と空気の通路になっていることを鮮やかに実感した瞬間であった。
今回の点穴や溝が浅く小さいのは、みかんの木のサイズ、根の深さに合わせたのだそうだ。
穴に炭を入れてから短く切ったコルゲート管(有孔管)をタテに入れていく。
穴が深く大きめのときは、コルゲート管が倒れないように支柱を打ちそれに番線などで止めるが、今回は必要ない。穴にタテに放射状に挿す竹は、サイズが小さいので竹を割って使う(ナタを使うより、石を台座に節を狙ってハンマーで叩くと簡単)。さらに竹の枝葉などで覆って土を軽くかぶせる。
掘り出して余った土は移植ゴテで均等にほぐして穴の周囲に置いておく。
設置してみたら管が長すぎた場合は、ノコで低く切る。
最後に炭と有機素材(今回は山から採ってきた腐葉土)でグランドカバーをする。
▼点穴づくりの要点
1)まず穴を掘って、詰まったものを詰まらない状態に改善。重たい大気が入り、軽い空気が出ていく
2)穴に放射状に入れる竹は、水が入るように、水が大地の中に枝や石を組み込んでいくように入れていく。
3)穴に枝葉のカバーを入れるとき、抑えすぎない。
4)土で埋めない(車が出入りする場所では板などをかける)
5)自然の雨や風の目線で作る。穴や溝の深さは場所によってちがう。体を通して大地に聞く。やわらかさを見る。根の深さの範囲、固いところは深く(根も深く張っているはず)
点穴は水脈の変化点や「斜面変換点」で作ると効果的だが、矢野さんは大樹が根を張る「鎮守の杜」は巨大な点穴のようなもので、地域の水脈や空気の流れを良くする装置でもあるのだ・・・というようなことを話してくれた。確かに鎮守の杜は山と平地の接線などによく見かける。
とすれば、屋久島の宿で聞いた「ため池は最高の水脈装置」というのも頷ける。ため池は放水がスムーズにいくように斜面変換点で作られることが多い。定期的に「ゆる抜き(放水)」して中を空にし、泥をかき出す・・・ため池もまた巨大な点穴だったのだ。
(続く)
はじめまして。
しばらく前から大地の再生に興味があり
蒜山の土地(ダーチャのような暮らし)で大地の再生もどきをしています。
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ありがとうござます。
▼時間列にリンクをまとめた「大地の再生」まとめ、のページもありますのでご利用ください。
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