下駄の花緒、アーモンドの花


私の下駄好きは古くからのブログの読者はすでにご存知であろう。山暮らしのときは家の前のテラスで過ごすことが多く、そのときはいつも下駄であった。この家でああまり履く機会がないのだが、以前レトロ市で桐下駄を見つけたので買っておいた。しかし花緒がきつく、しかもズタズタに破れている。ネットで探してみると高松市内に花緒のすげ替えをしてくれそうなお店を見つけたので、出しに行った。来月の屋久島行きでは温泉にも行くので、桐下駄を持っていきたいのである。

店に入ると展示空間が在庫商品で山積みになっていて、花緒は色々なデザインカラーのものがたっぷりある。その中から藍染調のものを選んですげ替えてもうことにした。値段は工賃込みで1,500円。いま職人さんが不在とのことで、2~3日かかる。取りに行ったときに足を入れて微調整してくれるそうだ。いいねぇ、こういう文化は大切にしないといけない。

私が桐下駄に開眼したのは群馬の山暮らし時代だった。当時履いていたのは茶色く塗られた安い桐下駄もどきで、おそらく海外で作られた物であった。その下駄も2足目を履きつぶしかけていたところ、県のイベントで沼田の下駄屋さんに出会ったのだ。

本物の桐下駄がいいのはわかっているのだが、高いので普段履きにはもったいない。ところがその沼田の下駄は、国産の桐なのに安い。まず形がよく、うづくりで桐の表面を研ぎ出している。鼻緒の色柄にも気品を感じた。いま履いている輸入ものの下駄の話をすると、おやじさんは目をぎらりとさせて、

「ダメダメそんなの履いてちゃあ。安くしとくから、とにかく一度これを履いてみなさいよ」

と買わされてしまったのである。これが履いてみると本当にすばらしい。輸入ものの桐下駄よりもずっと軽く、歩きやすい。そして無垢の木の感触が気持ちいい。

さっそく次の取材の遠征にこの下駄を持っていき、上田の別所温泉に入ったときにこの下駄を使った。そのときの感動をブログにこう書いている。

風呂上がりの桐下駄の感触が本当にすばらしい。まったく、なんという気持ちのいい感触だろう。そして、石湯を出てくるおっさんのことごとくが、ビニールのサンダルなのにあらためて感じ入り、衝撃を受けた。

この数十年の、はなはだしい西洋化の間に、日本人は「囲炉裏」を消し去り、もうひとつ「下駄」を捨てた。足裏というのは人の感性や健康にとって非常に重要な部分である。囲炉裏と下駄、これらは人と地球をつなげる強力な装置だったのだ。(2007年10月3日)

私は汗かき足なので、以後旅に出るときは車に必ずこの下駄を積んでいくことになった。まったく、旅先で温泉や銭湯に入ったあとに桐下駄を履く気持ちよさといったらないのである。

今日はyuiさんのご両親に新著のお届け。そしてハチの師匠宅にも届けに行った。昨年はアカリンダニ騒動で香川県はニホンミツバチの営巣が激減したのだが、師匠は薄荷臭のするエルメントールという薬でダニ避けし、なんとか冬越しさせたという。

畑にアーモンドの花が開花していた。手前のアーチはブラックべリー。野菜をたくさんいただいて帰還。

沼田のおじさんとはそれから店に尋ねたりして、いろいろ話を聴いた。かつて沼田周辺には60軒からの下駄職人がいたそうだが、今やたったの2軒。やめたところから桐材を安く譲り受け、それでストックがかなりある。少しでも安くして桐下駄の良さを知ってほしいのだそうだ。後継者はいないと聞いていたが今も元気でおられるだろうか。

下駄を作るための桐材は天然乾燥材である。しかし2夏雨ざらしにして、それでアクを抜く。桐下駄の表面は、カンナをかけた後、竹のササラでしごき磨いて仕上げとする。塗装はしない。だから足の湿気を吸ってくれるのだ。

塗り物の安物は足が熱くなってだるくなってくるが、本物のほうは履いたとたんにひんやりして心地良く、いつまで履いていても疲れない。これは合板で塗り物のフローリングと、無垢のフローリングの対比にも似ているだろう。だから私は沼田のおじさんに倣って、

「ダメダメそんな塗りものフローリングなんかに住んでちゃ、とにかくスギの無垢材を一度使ってごらんなさいよ」と言いたくなってしまうのだ(笑)。

ところで、この家が建てられて丸3年が過ぎ、4年目に入って変化を感じている。2階の愛工房のスギ、低温乾燥材の冬目の部分に艶が増してきたのだ。とくに夜の明かりを点けると顕著で、高温乾燥材との違いが現れてきた。高温乾燥材も全体に鈍いツヤが出てきてはいるが、低温乾燥材はとくに冬目がコパー色に輝くのが美しい。

冬目はスギ材の強度を支えている重要な部位である。高温乾燥ではこの精油分さえ抜け出てしまう。同時に強度も落ちるのは当然のことである。今回の本でも乾燥とツヤ、強度について言及したが、この真実と価値観が行き渡るために、あとどれほどの年月がかかるだろうか・・・。

今日のおドブ様。ちょっとピンクがかった仕上がりになるはず。花見酒にぴったりぢゃの〜♬


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