Amazonで予約しておいた今森光彦さんの『萌木の国』が届いた。クヌギを何度も萌芽更新させることで根元がコブ状に太る異形の樹「やまおやじ」が表紙に使われている。実はこのやまおやじ、Gomyoのフィールドにもたくさんある。それでこの本を読んでみたくなった。
Gomyoのフィールドでは今年大きな出来事が起きた。秋の台風によって神饌田の棚田が一部崩壊したことと(それによって学生たちと積んだ石垣も巻き込まれた)、その台風で大きなやまおやじのクヌギが道に倒れたのだ。
幸い人的な怪我や道の損壊はなかったが、棚田の崩壊は池にまで及んでおり、とても石垣で再生できる規模ではないので、コンクリートを使わぬ土木工事を発注することを決めた。
やまおやじに関しては、この河川と堰堤工事を担当した土木事務所が来て撤去してくれた。黙っていれば倒木は切り刻んでトラックで産廃に運ばれる運命だが、薪として使えるので小切りして置いていってもらった。
これだけの数のやまおやじが存在するのは全国的にみても珍しいと思うのだが、すでに管理放棄されて久しく、まったく更新されないまま、やまおやじたちは巨大化しており、そのコブはウロ状になり上部の幹の重量を支えきれずに倒れたのだ。
このままでは次の木が倒れるだろう。来シーズンは所有者の許可を得てこの更新を急がねばならない。それによって雑木林は明るくなり、その下草を管理することで昆虫たちが新しく姿を見せるかもしれない。
Gomyoのフィールドで寂しいのは、春のいちばんのチョウたちが見られないことである。雑木林があれば昔は必ず見られたコツバメ、ミヤマセセリ、あるいはトラフシジミの春型などがまったく出てこない。これだけクヌギがあるというのにである。
伐ることでモザイク状に森が明るくなり、チョウたちが飛びやすい環境ができれば、オオムラサキなども増えるかもしれない。ここにはギフチョウこそいないけれど、これまでオオムラサキ、ヒオドシチョウ、イシガケチョウ、クロヒカゲモドキ、ミズイロオナガシジミなどを見ている。種が絶えないうちに棲みやすい環境を作ってあげたい。
今森さんの『萌木の国』の冒頭に、雑木林における熱帯雨林での体験との類似性が語られている。「スケールこそ違うが構造は相似している。この両極端に見える環境の不思議な共通性を、私はいつも味わっている」。本当の雑木林は非常に豊かなものなのである。
私はかつてタイの原生林でチョウを採った経験があるのだが、その樹木の階層構造やチョウの圧倒的な豊かさに驚くと同時に、中高生の頃に魅せられた茨城県北の花園山の採集地を思い出したものである。
花園山一帯は、冷温帯林と暖温帯林の接点に位置する場所で、もともと天然の樹木や植物の種類が極めて豊富であった。加えて大平洋から福島南部へと向かう塩街道が中央部を横断しており、点在する集落には小さな牧場もあるという濃密な里山暮らしが営まれていた。
Gomyoとその周囲のフィールドが再びそんな花や虫たちの楽園になったらどんなに素晴らしいことだろう。今森さんの『萌木の国』のラストは、自分の雑木林にギフチョウが訪れた感動でしめくくられる。奥付を見るとこの作品は1999年のものだ。今やどこまで進化しているのか? 文章を追って確かめてみたい。